上記の2例は、約45万人の信者しかいない日本のカトリック教会だが、聖職者による未成年者への性的虐待が過去、発生していたこと、その性犯罪がこれまで教会側によって隠蔽されてきたことを明らかにしている。

日本のカトリック教会司教協議会は2019年、フランシスコ教皇の強い要請を受けて、日本における「聖職者による性虐待の実態調査」を実施し、その結果を翌年3月に公表した。それによると、「2020年2月末日の時点で、全16教区ならびに全40の男子修道会・宣教会、55の女子修道会・宣教会から回答を得た。その結果、聖職者より性虐待を受けたとされる訴えは、16件報告された」という。ちなみに、加害者側の聖職者の所属について、教区司祭(日本人)が7件、修道会・宣教会司祭(外国籍7件・日本人1件)が8件、1件が不明(外国籍)という。

ただし、同調査報告は「性犯罪は、暗数の多い犯罪でもある。とくに教会という密接なかかわりをもつ共同体の中での性犯罪は、被害者が声を上げることがより難しい。公的機関での公表件数然り、今回の調査においての該当件数も、言葉にできた勇気ある被害者の数であり、氷山の一角にすぎない。今もなお声を上げられない人がいる可能性は大きく、性虐待・性暴力全体の被害者の実数は把握しきれない」と述べて、被害件数の実数は16件よりはるかに多いことを示唆している。調査期間を広げれば、被害件数は少なくとも3桁台になると推測されているほどだ。

聖職者による未成年者への性的虐待が多発する背景について、欧米ではカトリック教会の機関的欠陥(例・独身制の義務)を指摘する宗教学者もいる。いずれにしても、岸田首相にとって日本のカトリック教会に解散命令の請求を出す要件は十分満ちているのだ(「日本教会にもあった聖職者の『性犯罪』」2019年2月16日参考)。

岸田首相が「旧統一教会とカトリック教会を同一視することはできない」と説明するならば、「法の下に全ては平等」という基本原則を無視することになる。ましてや、憲法でも明記された「信教の自由」の原則からみても、岸田首相の対旧統一教会政策は正当性に欠けているといわざるを得ないのだ。

幸運なことは、岸田首相の周囲には麻生太郎副総理がいる。彼はカトリック教会の信者だ。岸田首相は麻生氏に「カトリック教会の解散」の是非について相談できる。麻生氏は日ごろ、「礼拝に参加するより、ホテルのカウンターに座ってグラスを傾けるほうが好きだ」と、ダメ信者ブリを披露してきたが、岸田首相の暴走に対し、「信教の自由」の重要性について助言できる立場だ。

麻生太郎副総理 NHKより

岸田首相がカトリック教会に解散命令の請求を出さなければ、旧統一教会に解散命令の請求を出したのは、法的な根拠はなく、反旧統一教会のメディアと世論の圧力に強いられた結果だと首相自身が認めることになる。岸田首相は論理的には既に破綻している。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年12月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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