世界から争いが消える日が来るかもしれません。
日本の東北大学で行われた研究によって、マウスの争いが小脳の特定の細胞(グリア)の操作によって、大きく抑制できる可能性が示されました。
攻撃性の抑制には従来、鎮静剤や麻酔薬が使用されてきましたが、もし小脳のグリア細胞を直接的に操作できれば、人間の争いの元となる攻撃性を抑制できると期待されています。
研究者たちはプレスリリースにて「社会紛争のない世界を想像してみてください。小脳グリアの攻撃性を制御することで、平和な未来が現実になる可能性があります」と述べています。
脳の外部コントロールは、争いのないユートピアへの扉を開くカギになるのでしょうか?
研究内容の詳細は2023年11月24日に『Neuroscience Research』にて公開されています。
小脳は攻撃性を司る

小脳は自転車に乗れるようになったり、楽器を弾けるようになったりする運動学習に重要な役割を果たしていることが知られています。
小脳は自転車に乗るコツや楽器を上手く弾くコツのような、言葉で説明不可能な「コツ」にあたる部分を担当していると言えるでしょう。
(※アルツハイマー病の患者では例外なく小脳の活動が増強されており、大脳の失われ精神機能を小脳が代替していることも示されています)
また近年の研究により、小脳は運動学習の他に、ヒトやマウスにおいて攻撃性と関連しているとの報告が増えてきました。
そこで今回、東北大学の研究者たちは、マウスの争いと小脳の働きを調べる新たな研究を行うことにしました。
調査にあたってはまず、2匹のオスマウス(AとB)の小脳に電極が挿入され、オスマウスAの居住ケージ内部に、別のオスマウスBが投入されました。

すると予想通り、縄張りを侵害されたオスマウスAと侵入させたオスマウスBの間に、ケンカが始まる様子が確認できました。
ケンカは1分~数分に1回の頻度でおよそ10秒間にわたり続き、ケンカが終わるとしばらく休戦期間が訪れます。
またケンカ前とケンカ後の小脳の活動を測定したところ、ケンカ後には4-6Hzのシータ波と呼ばれる脳波が発生していることが判明します。
そこで研究者たちはケンカが始まったと同時に、マウスの小脳に電極を介してシータ波を送り込んだところ、ケンカの持続時間が有意に減少することが示されました。

この結果は、小脳を適切に電気刺激することができれば、争いを抑制できることを示しています。
ただこの段階では、小脳のどんな脳細胞がどのような仕組みで争いを制御しているかは明らかになっていません。
将来的に争いを抑制するシステムを人類の「治療」に用いるには、より詳細なデータが必要です。
そのため研究者たちは次の実験にとりかかりました。