バッタは3Gで最強になった!

チームは成熟手前のトノサマバッタを集め、1G・3G・5G・8Gの4つのグループに分けて、それぞれの重力下で2週間飼育しました。

その直前にバッタたちは最後の脱皮をむかえ、2週間の飼育期間中に外骨格を硬くして、成熟に達します。

実験中は常に遠心分離機を回しており、3日に一度だけ、餌やりなどのために最大15分間のみ停止させました。

(対照群となる1Gのバッタは遠心分離機にいれず、通常の飼育下に置いている)

その結果、各グループに興味深い変化があらわれています。

まず2週間後のバッタの生存率は、対照群の1Gで76%だったのに対し、3Gでは81%とわずかに上昇していました。

ところがそれ以上の過重力だと生存率が急に低下し、5Gで51%、8Gでわずか7%となっています。

2週間後の生存率の比較(3Gで最も高かった)
2週間後の生存率の比較(3Gで最も高かった) / Credit: Karen Stamm et al., Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences(2023)

面白いことに、この生存率の傾向はバッタの「外骨格の厚み」や「脚の強度」の変化とも一致しているようでした。

X線で調べてみると、3Gのバッタにおいて外骨格や脚の強度が最大化し、折れにくくなっていたのです。

例えば、外骨格のクチクラ層は「外クチクラ(exocuticle)」と「内クチクラ(endocuticle)」に2つに分けられますが、3Gのバッタで内クチクラが最も厚くなっていました。

外クチクラでは有意な差が見られていません。

一方で、5Gと8Gのバッタでは明らかに外骨格が薄くなっていました。

上:脚の断面図、下:外クチクラ(オレンジ)と内クチクラ(青)の厚みの変化
上:脚の断面図、下:外クチクラ(オレンジ)と内クチクラ(青)の厚みの変化 / Credit: Karen Stamm et al., Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences(2023)

加えて、弾性力を示す「ヤング率(Young’s modulus:材料が受ける力に対して元に戻ろうとする力)」を調べたところ、3Gのバッタの脚においてヤング率が最大化していました。

1Gに比べると、約67%の増加となっています。

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Credit: Karen Stamm et al., Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences(2023)

実験後のバッタたちの身体能力までは測定されていませんが、これらの結果は3Gの過重力においてバッタが最も強靭化し、5G以上では逆に弱体化することを示すものです。

こうした重力の違いによる身体変化の仕組みはまだ解明されていないものの、研究者らは昆虫の外骨格が、過重力に予想以上に短期間のうちに適応できることを示した貴重な成果だと述べています。

3Gのバッタのジャンプ力などが実際に上がったのかも気になるところですが、チームは今後、カニを含む他の節足動物でも同様の結果が得られるかを実験する予定とのこと。

その結果次第では、生物の身体能力を高める重力トレーニングの方法が確立できるかもしれません。

参考文献

Locusts Raised in High Gravity Grow Freakishly Strong… Up to a Point

Insects take a spin in the lab – Growing-up in a centrifuge makes their skeleton stronger

元論文

Insect exoskeletons react to hypergravity

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。