『蜘蛛の糸』『羅生門』『河童』などの小説で知られる小説家芥川龍之介は、大正時代を代表する文豪として現在も芥川賞と呼ばれる文学賞にその名を残している。服毒自殺という最期を迎えた生前の彼にはついては、ドッペルゲンガーに遭遇したのではないかといったような都市伝説がいくつも語られている。その中の一つに、芥川龍之介は関東大震災を予知していたのではないかというものがあるのだ。

 1923年(大正12年)9月1日に発生した関東大震災は、南関東とその隣接地を襲った巨大地震によって首都をはじめ甚大な被害を受けた災害だ。防災意識や訓練を普及啓発させるために制定された「防災の日」が、この震災に由来しているのはご存じのことと思う。

 芥川龍之介の『大震雑記』の記述によると、彼は震災同年の8月、鎌倉の別荘を訪れた際に藤の花がちらほらと咲いているのが目に留まった。藤は本来4月から5月にかけて咲くはずのものであり、季節外れの開花に疑問を持った。それどころか、山吹、菖蒲、蓮といった植物まで咲いており、いずれも季節外れの開花だった。

「どうもこれは唯事ではない。自然に発狂の気味のあるのは疑ひ難い事実である。僕は爾来人の顔さへ見れば天変地異が起こりさうだと云つた」と彼は記述している。しかし、彼の言葉を信じる者はおわず逆に嘲笑される始末だった。8月25日に東京へ帰った芥川龍之介、地震はその8日後に発生した。

 動物の異常行動や奇妙な雲の発生などに災害の前兆と思しきものが確認されることは多々あり、これは宏観(こうかん)異常現象と呼ばれている。彼は植物の異常な様子から地震を予知しており、測定器を用いらず人間の感覚で捉えていたという点では同様のケースとなるだろう。

 だが現象自体は、証拠や統計が不充分であり、因果関係が厳密に立証されているものではない。当然、彼の地震予知に関しても「偶然である」という見方がある。特に、藤は数年に一度夏にも花をつける「二度咲き」と呼ばれる習性があり、また気候の変化によって早咲きや遅咲きなど季節外れに花が咲く可能性が充分に考慮されるというのだ。

 ただ、このような植物の異常が前兆になっていたのではないかという話は、ほかにも確認されている。阪神淡路大震災においては、朝顔が夏から半年も咲き続けたり、地震前に椿が狂い咲きしていたりといった報告もあるという。古くは、江戸時代でも確認されていたようで、1855年、現在の暦で11月に発生した安政江戸地震の直前には、梨や桃の二度咲き、栗や柿の早熟、梅や桜の花盛といった目撃が伝えられていた。植物の異常性から何らかの前兆を察知することは、あながち馬鹿にできないものなのかもしれない。

 ただし、芥川龍之介は震災後に飛び交っていた「朝鮮人が放火をした」「井戸に毒を入れた」などといったデマを信じ切っていたようである。彼の地震予知は、前記の江戸時代の記録などによって得た情報であった可能性は考えられるが、良くも悪くも、彼は俗信・迷信や陰謀論を信じやすい人間であったことは確かだろう。

【参考記事・文献】
中見利男『都市伝説の謎』
芥川龍之介も知っていた大地震の前兆とは?
芥川龍之介は藤の花を見て地震予知 植物学者の見解は?

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文=ZENMAI(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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提供元・TOCANA

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