魚の中には、ある魚の標準和名や一般名称と、別の魚の地方名が一致するという例が少なからずあります。
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黒鯛=クロダイではない
釣りの対象魚として人気が高く、一般知名度も低くはない魚・クロダイ。数少ないタイ科の魚の一つであり、マダイと比べると黒っぽい体色をしていることから標準和名がクロダイとなっています。
しかし、このクロダイをクロダイと呼ぶ地域は、多数派であるとは言い切れません。というのも、この魚は中部地方以西では「チヌ」と呼ばれることが一般的だからです。
クロダイをチヌと呼ぶのは、かつて「ちぬの海」と呼ばれていた大阪湾で多く採れたことに由来すると言われます。そのこともあってか大阪湾沿岸では、クロダイのことを黒鯛といっても通じないことがあります。そのような地域では、タイ型をしてより色の黒い「メジナ」を黒鯛と呼ぶことも多いです。
赤鯖=サバでもない
この「黒鯛」のように、とある魚が別の魚の標準和名や一般名称と同じもの、もしくは似たようなものになっていることは少なくありません。同様の例に、伊豆諸島の「アカサバ」があります。
アカサバは標準和名をハチビキと言います。その名の通りサバにそっくりな体型をしていますが、青魚の代表であるサバと異なり全身が赤みががっています。またそれだけでなく、サバでは目立たない鱗がハチビキの場合ははっきりしており、違うグループの魚であることがわかります。
ハチビキの面白いところは、体色だけでなく筋肉の色合いが(白身魚であるにも関わらず)真っ赤であるということ。サバは血合いが多く身が赤く見えるのですが、ハチビキは筋肉全体が真っ赤で、この意味でもアカサバという名前はぴったりです。
マス=鱒ではないことも
アカサバは関東周辺での呼び名なのですが、東海南部や関西南部にもまたこのような魚がいます。それは「アズキマス」。
マスとつくこの魚、関東の人であればニジマスやカラフトマスのような「鱒」を想像されると思いますが、実際はハタの仲間の「キジハタ」のことを指します。これらの地域ではなぜかハタの仲間をマスと呼び、小豆のような模様があるためにアズキマスとなるのです。
面白いことに、かなり離れた高知県でもハタの仲間をマスと呼ぶ地域があります。これらの地域ではマスの仲間であるサツキマスも水揚げがあるはずなので、マスと呼んだときにどちらの魚を指しているかは文脈から判断する必要があるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>