最近水揚げが増えつつある、一風変わったカワハギ「ソウシハギ」。有毒のため流通が制限される一方で、美味しく食べる文化もあります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
南のカワハギ「ソウシハギ」
冬になると旬を迎えるサカナの一つ「カワハギ」。南方系の魚で南に行けば行くほど種類が増えますが、中には我々の知るカワハギ類とはその見た目が大きく異なるものがあります。
そんな「奇妙なカワハギ」の一つに「ソウシハギ」というものがいます。この魚は千葉県以南の西南日本に生息しており、特に伊豆諸島や南西諸島で水揚げが多いです。
普通のカワハギを横に大きく伸ばし、青い線を適当に描きつけたようなヘンな見た目は、一度見ると忘れません。またうちわのように大きな尾びれも特徴的で、釣りの際に針にかかると力強くグイングインと引くのですぐにそれと分かります。
水揚げされるとニュースになるワケ
このソウシハギ、基本的には島しょ部で多く見られる魚なのですが、近年の海洋温暖化の影響もあり本土でも姿を見る機会が多くなっています。しかし、本土各地で水揚げされた際には必ずと行っていいほどニュースになります。
その理由は「内蔵に猛毒を持つ」から。ソウシハギは解体すると、他のカワハギ類と同様に大きく肥大した肝臓が現れます。これが大変美味しそうなのですが、この魚は肝臓や消化管に「パリトキシン」という猛毒によく似た症状を引き起こす、謎の毒成分を含んでいる事があるのです。
パリトキシンは猛毒で知られるフグ毒テトロドトキシンの数十倍の強さを持つとされており、普通のカワハギのように肝を食べてしまうと大事故に繋がる可能性があります。そのため各自治体の保健所から「販売禁止」の通達が出てしまうのです。
「毒魚だから食べちゃダメ」ってホント?
そんな恐ろしいソウシハギですが、なんと食用にする地域があります。というのも、もとより数多く生息している伊豆諸島南部や南西諸島では、有毒である消化管を取り除いて、身の部分を食べているのです。
実は同様にパリトキシン様毒を持つとされているハコフグやアオブダイと違い、ソウシハギによるヒトの食中毒事故は現時点では報告がありません。そのため現状では「内臓さえ取れば無毒である」というのが正しいとみられ、食用にするのも決しておかしなことではないのです。
筆者も以前ソウシハギの身を食用にしたことがありますが、水分を抜いて調理すればフグにも負けない味だと感じました。有毒部位を含むためオススメすることはできませんが、安全に美味しく食べている地域もあることは知っておいて損はないでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>