人類初の高性能爆薬「雷金」は紫色の煙を発生させる
日本語で「雷金」と呼ばれる爆薬は、人類が最初に開発した高性能爆薬であり、1585年に錬金術師ゼバルト・シュヴァルツァーによってはじめて単離されたとされています。
シュヴァルツァーは、雷金を作るには「金のサンプルを王水に溶解し、飽和溶液に塩化アンモニウムを加え、鉛球を通して溶液を沈殿させ、酒石酸上で乾燥させる」と記しています。
王水は金を溶解させることが知られる溶液として知られており、ざっくりと言えば、金を溶かした溶液にさまざまな化合物を混ぜて乾燥させたものと言えます。
こうして作られた「雷金」は極めて高性能な爆薬であるだけでなく、ちょっとした刺激によっても暴発する、極めて不安定なものでした。
そのため雷金の製造を目指した多くの錬金術師が、実験中の爆発によって深刻な怪我を負うことになったと記録されています。
またもう1つ着目すべき点は、その爆発によって生じる煙が紫色をしていることにありました。
時代が進むと雷金が主に金が不安定なニトロ基と結合していることや、効率的な製造過程も明らかになりましたが、煙が紫色である理由については、詳しく解っていませんでした。
そこで今回、ブリストル大学の研究者たちは、400年に及ぶ謎を解明すべく調査をはじめました。
煙の中にはナノサイズの金粒子が含まれている
なぜ雷金の爆発によって紫色の煙が発生するのか?これまでの研究による予測によれば、主な原因は煙に含まれる金のナノ粒子が引き起こす「局在表面プラズモン」と呼ばれる現象であるとされています。
なにやら難しそうな単語ですが、これは構造色が作られるのと同じ現象です。
例えば鮮やかな青い翅を持つモルフォ蝶は、翅の表面がカラフルな色素で覆われているのではなく、微小な構造が特定の波長の光を反射して、特定の色だけが目に見えるようになるからです。

これはCDやDVDの表面が虹色に輝いて見えるのも同じで、CDの表面にある細かい溝が特定の光の波長だけを反射させるからです。
同様にとても小さな金属の粒子が光を受けると、粒子の中の電子が光の波長に反応して一緒に振動します。
この電子の振動が、特定の色の光を強く反射することが知られています。
つまり、局在表面プラズモンは、金属のナノ粒子が光を受けて、特定の色を反射する現象と言えます。
これまでの研究では、爆発のときに発生する金ナノ粒子が、紫色の波長を反射するのに丁度いいため、煙の色が紫色になるのだろうと予測されていました。
しかし爆発時にどんな金ナノ粒子が本当に発生するかどうかは、調べられていませんでした。
そこで今回、ブリストル大学の研究者たちは、5㎎の雷金が爆発するときに発生する煙を、銅メッシュで捕捉し、透過型顕微鏡をしようして観察を行いました。
すると煙の内部には、下の図のように、30nm~300nmの球状の金ナノ粒子が含まれていることが判明しました。

この結果は、雷金の爆発した煙の中に球状をした金ナノ粒子が含まれていることを実証するものとなります。
また研究者たちは、球状をした金ナノ粒子が起こす表面プラズモン共鳴の効果や大きさなどの要素が絡み合って、紫色の光を反射していると結論しています。
現在、研究チームは今回の方法を使用して、銀・鉛・水銀など他の雷酸塩によって生成される煙の正確な性質と金属粒子の分析を予定しています。
参考文献
400-year-old mystery of why early explosive produces purple smoke solved by Bristol academics
元論文
Explosive Chrysopoeia
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。