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「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」という有名なセリフは、岸田文雄総理大臣が昨年の5月に述べたものです。
彼の念頭にあった懸念は、ウクライナに侵攻したロシアを懲らしめずに放置してしまうと、これをみた中国が東アジアにおいて、挑戦的な現状打破行動を加速化させることになりかねないということでした。
確かに、中国の意思決定者がウクライナ戦争の成り行きを注意深く観察していることは間違いないでしょう。しかし、ロシアのウクライナへの侵略が「成功」したのだから、自分たちも台湾への侵攻をうまくやれるだろうと単純に学習して行動することなど、ほとんどあり得ません。
侵略の連鎖が世界で起こるという「ドミノ理論」は、それが私たちの心に恐怖を与えるためにアピール力がありますが、これまでの国際政治研究は、特別な条件が整わない限り、こうした現象が起こることはなく、むしろ、侵略した国家に対しては周辺国が対抗行動をとることにより、その拡大を阻止しようとするバランシング行動がより一般的であることを明らかにしています。
戦争が起こる2つのパターン国際政治の標準的なリアリスト理論が正しければ、国家の行動は関係国とのバランス・オブ・パワーに左右されます。このバランス・オブ・パワーと戦争の因果関係は、2つのパターンに整理することができます。
第1に、コーナーにどんどん追い込まれている国家は、自国にとって不利に変化するパワー・シフトを止めるために戦争に訴えることがあります。衰退する国家の指導者が、自国の生存を脅かすように事態が変化しているという恐怖心を持つと、この運命から逃れる手段を戦争に見いだしうるのです。
このような動機を高めている政策立案者は、国家としての生き残りを賭けて、手遅れになる前に劣勢を挽回することにより自国のパワー・ポジションを回復するチャンスを戦争に時に託してしまうのです。