Tusenö(トゥセノー)はヨハン・ホルズナーとアレクサンダー・ベンツによって2015年に設立された、スウェーデン発の日本未上陸のマイクロウオッチブランド。メカクォーツを搭載したファーストモデルでスタートを切り、当時、スウェーデンのクラウドファンディング史上で最も多くの資金調達を実現している。 現在、時計のデザインとすべての作業はヨーテボリのオフィスで行われ、スイスで少量生産しており、20年にはスウェーデン第2の都市、ヨーテボリ中心部にショールームをオープンしている。
ちなみに、ブランド名の“トゥセノー”はスウェーデン西海岸を描いた古い海図“クステン・メッド・デ・トゥセン・オルナ(千の島々のある海岸の意味)”に由来しており、当初、ブランドロゴは、古い海図と現代の海図の灯台のシンボルを組み合わせたものだった。現在は星形のデザイン(浅瀬や危険な海域を航行する船舶を安全な航路に誘導するセクター灯台がモチーフ)にバージョンアップされている。
【実機レビューしたモデル】
WINDSEEKER BLUE
ウィンドシーカー(ブルー)
今回、実機レビューした“ウィンドシーカー”は、クラシックなヨットとその冒険心をオマージュした、トゥセノーの代表コレクションだ。“冒険心”というコンセプトが示すように、実用性を重視した作りが採用されており、ベゼル、ケース、ブレスレットが汚れや小傷が目立ちにくいヘアラインで統一。日常生活のなかで水を気にせずに使用できる10気圧防水を備えている。
【SPEC】
■素材:ステンレススチール(サファイアクリスタル風防)
■ケース径:39mm、ラグの上下幅約47mm、厚さ約10.5mm、150g
■防水性能:10気圧防水
■駆動方式:自動巻き(Sellita SW200-1)
■価格: 販売価格は649米ドル(約9万6000円)
※オレンジ、グリーン、シルバー、ブルー、ブラックの5色展開
【Dial:文字盤のデザインと作りの感想】
文字盤は外周に5分刻みで分表示を刻印したヘアライン仕上げの見返しリング(フランジ)、内側にシボ加工を施したアウターリング、中央にサンレイダイアルという構成だ。特に印象的なのが中央のサンレイダイアルだろう。曲線ラインは古典的なヨットのチーク材のデッキからインスピレーションを得たもので、海洋国家スウェーデンの時計ブランドとして、明確な個性を主張している。また、この装飾を加えたことで、文字盤の凝縮感が増している点も注目したい。縦のラインが強調されたことで文字盤を実寸よりもコンパクトなサイズに見せる効果を発揮し、デザインバランスが整えられている。
文字盤はサンレイダイアル以外も語りどころがかなり多いのだが、次に注目したいのが外周の見返しリングだ。見返しリングは表面に同心円のヘアライン仕上げが施され、傾斜が付けられている。この傾斜がデザインのポイントになっており、文字盤に向けて光を反射する効果(サンレイ装飾やデッキモチーフの装飾に陰影を生む)、奥行き感を高める効果、そして分表示の視認性を高める効果を発揮しているのだ。ちょっとした作りこみの工夫なのだが、この傾斜があるとないとでは印象が大きく違ってくることだろう。
見返しリングの内側に設けられたアウターリングは中央のサンレイダイアルよりも一段低く凹ませたデザインとなっている。表面にはシボ加工が施され、さらに分目盛りを配置。この分目盛りはシボ加工の表面より僅かに高く、立体的な造形にデザインされているため、プリントの平板な目盛りよりも視認性が高いのだ。目視で明確に高低差が認識できる高さではないのだが、こうした細部の作り込みの積み重ねが見た目の印象を変えるため、奥行き感をプラスするポイントとして、とても重要な役割を果たしている。
649米ドル(約9万6000円)と手頃な価格帯のモデルだが、インデックス、針もオリジナルデザインで作られている。同価格帯でほかのブランドの時計を見ると、メジャーブランドの時計であっても針がペラペラで、取り付けの際に歪みが出ている(簡単に言うと品質が良くない)ものもあるのだが、トゥセノーにはその心配はいらないだろう。針、インデックスは多面的な造形にデザインされ、しっかりと厚みを備えている。秒針の先端を鮮やかなイエローにペイントして、視認性とデザイン性が強化されており、シャイニーな文字盤とポップな明るいイエローのコンビネーションも魅力的だ。
文字盤のデザインで好みが分かれるのが6時位置のデイト表示だろう。良い点から取り上げていくと、一般的な四角ではなくて丸型にしたこと。丸型にしたことで、デッキモチーフの曲線ラインとうまく調和している。左右対象のデザインになるように、6時位置にレイアウトしているのも素晴らしい。少し気になるのは、デイト表示の色が白であること。視認性を高める意味で白は効果的だが少し存在感が強い。左右対象の文字盤デザインを生かすならば、デイト表示を文字盤に近い色にするという選択肢があったかもしれない。
【Case & Bracelet:ケースとブレスレットなど外装パーツの感想】
外装はベゼル、ミドルケース、裏ブタの3ピース構造を採用しており、ベゼル、ケース、ブレスレットの表面はすべて縦の筋目を入れたヘアライン仕上げで統一されている。小傷や汚れが目立ちにくいヘアライン仕上げをベースにしたことで実用時計らしい質感に仕上げられているが、ベゼルの傾斜、ケースのエッジの面取り部分とケースサイド、同じくブレスレットのコマのエッジの面取り部分とサイドには鏡面仕上げを採用。実用時計らしい雰囲気を壊さない加減で、程よく高級感も感じられる。
実用時計、とくにヘアライン仕上げをベースにした時計が好きという筆者の個人的な好みも大きく影響しているが、率直に言ってケース、ブレスレットなど、外装パーツは加工精度も満足感が高い。ロレックスやオメガのようにパーツ同士がほぼ隙間なく密接に組み合わせられたレベルではないが、オリエントスター、セイコーなど、同価格帯の時計と比べても遜色はない品質を備えている。
直径が約6.5mm(編集部で計測)と、通常より大きめにデザインされたねじ込み式リューズ(トップには新デザインのブランドロゴをデザイン)も実用時計としての評価を高めるプラスポイントだ。大きめのサイズなのでリューズ操作しやすく、ねじ込む際にストレスを感じさせない。存在感のあるフォルムは、時計のデザインにさりげない個性を加える役割も果たしている。堅牢性を重視するならばリューズガードが必要となるのだろうが、この時計はスポーツウオッチではないし、デザインバランスも崩れてしまうのでリューズガードを無くしたのは賢明な判断と言えそうだ。
【Wearability:装着感について】
時計は直径が39mm、ラグからラグの上下幅が約47mm、厚さ約10.5mm。重さが150gという仕上がりだ。近年のダウンサイジングのトレンドともリンクするサイズ感となっており、デイリーユースで使うには最適なサイズだ。39mm以下では小さすぎて文字盤のデザインや質感が生きてこないし、39mmを超えてくると重厚でソリッドなベゼルやケースが過度に強調されてしまったことだろう。
肝心の装着感だが、率直に言ってとても快適だ。筆者は手首周りのサイズが約17mmなのだが、ラグの上下が余裕をもって手首の内側に納まっており、150gの重さも適度な重量感を感じられて心地よい。2023年発表されたロレックスのエクスプローラー40がちょうど同じくらいのサイズ感で、直径40mm、重さ142gという仕様なので、メンズウオッチとして、まさに一般的なサイズ、重量といえるだろう。
装着感を高めているポイントとして、ぜひ注目しておきたいのが時計本体とブレスレットを繋いでいる弓カンの作りだ。ラグの先端よもり内側にブレスレットが設置される設計になっているため、ブレスレットの付け根の可動域が広く、手首とブレスレットの隙間を詰めて装着することができるのだ。
ラグと手首の間に隙間ができてしまうと装着時の安定感がなくなり、見た目も悪くなるが、このブレスレットにそうした心配はいらないだろう。また、弓カンのデザインをラグのフォルムとしっかり連動させている点も好印象を感じるポイントだ。ウィンドシーカーはケース、ブレスレットが直線を生かした造形に仕上げられているのも魅力だが、弓カンとラグのデザインに一体感をもたせているので、見た目のバランスがとても良い。手の届く価格ながら、完成度をしっかりとつきつめたデザインであることがうかがえるポイントだ。
ブレスレットは安価な時計に見られる凸型のコマを使用した擬似的な3連ではなく、削り出しのコマを三つ組み合わせた本格仕様。表面の加工はケースと同じくヘアライン仕上げをベースにしており、中央のコマは上下に面取りを施して鏡面に仕上げている。左右のコマも両サイドを面取りしており、この面取り部分とサイドが鏡面に仕上げとなっている。肌に直接触れる裏面にも同様の面取りを施しているが、汚れを目立ちにくくして肌触りを良くするため、全面がヘアライン仕上げで統一。ブレスレットはやや遊びが多い印象も感じるが、その反面でコマの可動域が大きいため手首にしっくりとフィットしてくれる。
ちなみに、立て付けの悪いブレスレットは体毛が挟まれて不快に感じることがあるのだが、ウィンドシーカーのブレスレットは一切、そうしたストレスを感じることなく快適に装着できた。なお、メタルブレスは、ケースと接合する部分がレバー式になっているため、工具を使わずに着脱が可能だ。
【Movement:ムーヴメントについて】
裏ブタはサファイアクリスタルを設置したシースルーバック仕様。搭載されているのがSellitaのCal.SW200-1でスペックは2万8800振動(ハック付き)、41 時間パワーリザーブを備えている。高級機のようにロングパワーリザーブではないのは留意点と言えるが、他社の普及機と比べても遜色ないスペックを備えており、デイリーユースのモデルとして安心して使用できる。汎用ムーヴメントのため、仕上げについて特筆すべき点は見当たらないが、ローターやテンプの動きを楽しめるのは魅力だ。
【General review:まとめのコメント】
誤解を恐れずに言うと、機能やデザイン要素が多いモデルはある意味でデザインの完成度が低くても情報量でごまかしやすい側面がある。シンプルな3針モデルは、要素が少ないため、ごまかしが利かず、デザインの良し悪しがはっきりしてしまう場合は多いのだ。さらに言うと、シンプルな3針はブランドの個性を表現するハードルも高くなる。
その点、今回実機レビューした“ウィンドシーカー”は、時刻表示とデイト表示というシンプルな時計だが、海洋国家として歴史を刻んできたスウェーデンのアイデンティティーをデザインで表現している点が素晴らしい。デッキをモチーフにした文字盤はオメガでも採用しているコンセプトだが、トゥセノーのウィンドシーカーでは、湾曲させたラインに仕立て、外周リングから中央のサンレイ文字盤へ至る立体的な造形によってしっかりと独自性を打ち出している。
直線を強調したソリッドなケース、ブレスレットの意匠も魅力的で、仕上げの質感、装着感ともに良好だ。700米ドル以下(649米ドルで約9万6000円)で3針時計を探しているならば、必ず選択肢に入れておきたい時計と言えるだろう。
》Tusenö(トゥセノー)
文◎船平卓馬(編集部)
提供元・Watch LIFE NEWS
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