日本サッカー協会(JFA)審判委員会は12月8日、東京都文京区のJFAハウスにてレフェリーブリーフィングを開催した。
本ブリーフィングにはJFA審判委員会委員長の扇谷健司氏、審判マネジャーJリーグ担当統括の東城穣氏、審判マネジャーVAR担当の佐藤隆治氏の3名が登壇。2023シーズンのJリーグで、VAR制度が適切に運用されていたのか。これに関する振り返りが、元国際審判員の佐藤氏によって行われた。
フィールドとは別の場所で、複数のアングルの試合映像を見ながら主審をサポートするビデオアシスタントレフェリー(VAR)。2021年より同制度がJリーグで本格導入(通年運用)されており、これを担う審判員の成長ぶりや今後の課題が明確になってきている。
こうした現状のなかで、2022シーズン限りでトップリーグ担当審判員から勇退した佐藤氏が感じた、今年のJリーグにおけるVAR制度運用の課題は何だったのか。ここでは同氏の会見コメントを紹介しながら、この点について言及する。
VAR制度とは
試合映像を別室でチェックしているビデオアシスタントレフェリーが、主審を含む現場の審判団による誤審や見逃された重大な事象について介入できるVAR制度。「最良の判定を見つけようとするのではなく、(現場の審判団による)はっきりとした明白な間違いをなくすためのシステム」というのが同制度の根本精神であり、「ほとんど全ての人が、その判定を明らかに間違っていると思う以外は、VARがその事象に介入することはしない」というのが大前提となっている(JFA公式ホームページより引用)。
競技規則上、VARは試合中の全ての事象に介入できるわけではない。介入できるのは以下の4つの事象や状況のみだ。
- 得点か、得点ではないか。
- PKか、PKではないか。
- 退場か、退場ではないか(2枚目のイエローカードは対象外)。
- 警告・退場の人(ひと)間違い。
「VAR担当審判にはプレッシャーをかけた」
本ブリーフィングで佐藤氏が強調したのは、VARが本来担うべき役割。各審判員の自己流や、慣れによる不適切な制度運用を徹底的に排除する姿勢が、会見コメントから窺えた。
「VAR担当審判員には、かなり厳しくプレッシャーをかけました。やってほしいのは基本に戻る、原点回帰だよと。(VAR制度がJリーグに本格導入されて)たかだか3年目ですけど、(審判員による)慣れや自己流があったのは事実です。VARの仕事は、コンファームするかレビューするかの二択(主審の判定を追認するか、一度下された判定に介入するか)。これを決断することについて、かなり厳しく言いました」
「ビデオ・オペレーション・ルーム(VOR。VARが試合をモニタリングする部屋)の中は無音です。ピッチ上の歓声や現場感が全く分からない状態でやっています。これはなぜかと言いますと、映像で見たものをフラットに判定する(判定したいから)。現場のレフェリーはピッチ上やスタジアムの雰囲気、選手の温度(感情)やテクニカルエリア(両軍のベンチ)からのプレッシャーを肌で感じながらジャッジします。でも、VORの中ではそういったものはない。目の前のモニターに映し出されている映像を見て、現場のレフェリーの判定をコンファームするのかレビューするのか。これを決断してください、(主審の判定を)サポートという言葉を使うなと言いました」