ベストセラーがさらに進化。より安全にフレンドリーになっている
N-BOXは、いまやホンダの主力車種であり、日本を代表するベストセラーである。2011年末に初代が登場し、2017年8月に2代目にモデルチェンジした際には、まだ十分に通用する実力がありながら、全面刷新を図ったことに驚いた。Kカーながらハイテン材を多用するなど、内容的にも非常に凝っていたのが印象的だった。
3代目となる新型N-BOXは、これまで培ってきた広さや使いやすさを受け継ぎながら、より幅広い層のユーザーに寄り添い、「幸せな時間を乗る人すべてに提供すること」を目指したという。プロトタイプを、本田技術研究所のテストコースで、従来型と比較試乗した。
キープコンセプトの外観は、これまでのシンプルな造形を継承しながら各部を洗練。ひと目で新しさを感じる。標準仕様はかわいらしく、カスタムはワイド&ローの精悍なイメージでまとめられている。
車内は、インパネ回りをはじめ雰囲気がだいぶ変わった。メーターはホンダのKカーでは初採用となる7インチのフルグラフィック型ディスプレイを装備し、2本スポークタイプに変更されたステアリングホイールの内側に配された。これによりインパネはフラット形状になって、死角が減少して見晴らしがよくなっている。メーターディスプレイは、100種類もの背景がランダムで表示されるカレンダーや記念日など、表示に遊び心のある機能を備えている。実用面では、ホンダのKカーとして初めてマルチビューカメラシステムを採用。独自の「ピタ駐ミラー」は、サイドアンダーミラーがドアミラーの根元へ移設され、映す範囲の見直しと併せて、より直感的でわかりやすくなった。
室内は広く気持ちいい。細部の見直しで、各部のクリアランスが拡大し、収納スペースはグローブボックス容量が倍増するなど使い勝手が向上した。自在に演出でき、アイデアが満載された空間設計は、N-BOXの大きな魅力。各部の作りも一段と上質になっていた。
4シーター・パッセンジャカーとして高い完成度
走りは、ファーストカーとして通用する実力を確認。扱いやすくて爽快な走りを追求した成果を実感した。2代目も大きな不満を感じることのない実力の持ち主だったが、新型は確実に先をいく。乗り比べると、進化の幅は大きかった。
パワートレーンは、VTECや電動ウエストゲートなど他社にはない技術を導入したエンジンはもちろん、CVTも基本的にはキャリーオーバー。3代目では雑味を排除するための制御が見直されている。
ドライブしてより大きな違いを感じたのはターボ(64ps/104Nm)だ。2代目もパワー感は十分だが、ややオーバーシュートぎみにトルクが立ち上がる場合が多い。そのため小舵角で曲がる際にフロントが浮いてアンダーステアが出やすい。ところが3代目は力強さをそのままに、加速がリニアになりずっと乗りやすくなった。アクセルを踏み増したときにもダイレクト感があり、キックダウンの仕方も自然で滑らかだ。一方の自然吸気(58ps/65Nm)は、ライバル各車と比べNAとしては力感がある点は従来どおり。こちらも全体的にスムーズになっている。
ボディはハイテン材の使用率を継承しながら配置などを見直し、NVHや操縦安定性、乗り心地、静粛性を向上させたほか、フロアに遮音フィルムを追加するとともにルーフライニング素材を変更。下側と上側の両方で静粛性を高めた。カスタムにはライニングに吸音材を追加して、ワンクラス上の静粛性を目指している。
その効果は明らか。走り出してすぐに違いを直感する。高速周回路を巡行すると、とくにカスタムはもはや普通乗用車と変わらないほど静か。前後席間で明瞭に会話できることに感心した。
シャシーの変更はサスペンション締結の最適化とアライメント適正化、ダンパーの減衰力変更、電動パワーステアリングの舵角制御変更など。足回りは、硬さ感が減るとともに収斂性が向上。うねった路面でもフラットライドで、ざらついた路面でのブルブル、ビリビリとした感覚が減った。頭が振れにくくなったのは、乗り物酔いしにくいよう配慮された視界と併せて、快適性に大いにプラスをもたらした。
電動パワーステアリングは、操作に対する予測量をもとに制御していた方式から、実際の舵角に応じたコントロールに改められた。フィーリングは大幅に向上。フリクションとイナーシャが減り、修正舵を要する状況が激減している。
アライメントは、フロントがトーアウトになりにくいように変更され、直進安定性が向上していることが今回の短時間の試乗でもうかがえた。高速道路を使った長距離ドライブをより快適に楽しめそうだ。
新旧を乗り比べて、予想よりも進化していたことが印象的だった。