牛や豚に「美味しいモツ」があるように、魚にもそれは存在します。そしてその中には本家を凌駕するほど美味しいものもあります。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
魚の内臓食べる?食べない?
我が国において魚は重要なたんぱく源のひとつですが、肉と比べるとどうしても歩留まりの悪さという欠点があります。筋肉しか食べないとすると、可食部は総重量の3~4割程度にしかなりません。
その一方で総重量の6~7割程度を占める「アラ」も、新鮮な魚のものであれば美味しく食べることができます。アラには頭部や中骨、すいた肋骨などがありますが、鰓や消化管などの「内臓」もその一部です。
世界では魚の内臓はさほど食べられていませんが、わが国ではとても大事な食材。アンコウやカワハギなどのように「肝」が美味しいものや、ニベのように浮袋が珍重されるもの、タラのように鰓を食べるものもあります。
意外と美味な「魚のホルモン」
さて、魚の内臓の中で、食材としてはややマイナーと言わざるを得ないのが「消化管」。中に未消化物が入っており洗浄が必要なこと、鮮度が落ちると腐敗臭が出ること、そしてサイズが小さいことから一般的にはあまり食用にされません。
しかし、いくつかの種の魚は消化管が大きく発達しており、食材として利用することができます。特に好まれるのは大型の肉食魚であるスズキやハタ、カサゴの仲間の魚で、これらの消化管は肉厚でじょうぶな筋肉に覆われており、まるで豚や牛の「ホルモン」のような食感を楽しむことができます。
ちなみに居酒屋で人気のメニューである「酒盗」はカツオの消化管を塩漬けにしたもの、「チャンジャ」はタラの消化管をキムチの様に漬けたものです。
魚モツ界最強の存在「おしつけのこわた」
そんな「美味しい魚のホルモン」の中でも、個人的に最も美味しいと思うのが「アブラボウズ」という魚の消化管です。
アブラボウズは深海に生息する世界最大のカサゴ目の魚で、胃袋と腸は非常に大きく、また肉厚になっています。カサゴ目の魚の消化管は何層もの組織が重なったような構造になっているのですが、アブラボウズの場合は筋肉と消化管壁の間に脂のような柔らかい組織があり、加熱するとムチットロッとした食感になって大変美味です。例えるならば牛のギアラのような味わいでしょうか……。
アブラボウズは小田原など西湘地域で非常に珍重されており「おしつけ」と呼ばれています。その消化管は「おしつけのこわた(小腸)」と呼ばれており、アブラボウズの解体を行う店舗であれば市販されることもあります。もしこの土地を訪れることがあれば、スーパーの鮮魚店をのぞいてみると出会えることがあるかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>