太陽フレア(太陽における爆発現象)が原因で発生する「太陽嵐」により、地表の電子機器や通信インフラ、人工衛星は大きな被害を受けると考えらえています。
そして地球を壊滅状態に陥れるような「巨大太陽嵐」は、過去に何度も発生してきました。
オーストラリア・クイーンズランド大学(The University of Queensland)数学物理学部に所属するベンジャミン・ポープ氏ら研究チームは、樹木年輪を分析することで、過去の特異な太陽嵐の原因が、大規模な太陽フレア「スーパーフレア」ではなかったと発表しました。
研究チームは、1度のスーパーフレアではなく、「長期にわたって何度も繰り返される太陽フレア」が原因だと考えています。
研究の詳細は、2022年10月26日付の科学誌『Proceedings of the Royal Society A』に掲載されました。
大災害をもたらす太陽嵐
太陽の表面で「太陽フレア」と呼ばれる爆発噴火が起こると、電磁波・粒子線・粒子などが放出され、地球や人工衛星に大きな被害をもたらします。
これが「太陽嵐」と呼ばれる災害です。

実際、1859年には記録上最大の太陽嵐(キャリントン・イベント)が発生し、ヨーロッパおよび北アメリカ全土の電報システムが停止。電気回路のショートが原因で火災も発生しました。
まだ電子機器がそれほど広まっていなかった時代でも、さまざまな被害報告があったほどなので、現代で起きた場合の影響は計り知れません。
さらに科学者たちが恐れているのは、「スーパーフレア」と呼ばれる大規模な太陽フレアです。

スーパーフレアは人類史上一度も観測されていませんが、将来起こるかもしれず、これによって生じる「大規模な太陽嵐」は地球を壊滅に追い込むでしょう。
この大災害に備えるためには、スーパーフレアや過去に地球を襲った巨大太陽嵐について、もっと詳しく知らなければいけません。
過去に発生した巨大太陽嵐「ミヤケ・イベント」
2012年、日本・名古屋大学に所属する三宅芙沙(みやけ ふさ)氏ら研究チームは、樹木年輪を調査することで、過去に巨大太陽嵐が発生していたことを発見しました。
太陽フレアによって高エネルギーの放射線が大気圏上層に到達すると、窒素原子が放射性炭素(C14)に変化します。
このC14は大気や堆積物、人間、動物だけでなく植物にも取り込まれます。
つまり樹木年輪に含まれるC14の量を調べることで、該当する年の太陽嵐の有無やその規模が分かるというわけです。

三宅氏は当時の研究により、西暦775年にC14濃度が急激に増加していたことを見つけ、この時に特殊な巨大太陽嵐が発生していたと結論づけました。
この方法と発見は考古学者たちにとって革新的であり、ポープ氏は同様の方法で発見された特殊な巨大太陽嵐の事例を「ミヤケ・イベント」と呼んでいます。
では、もっと多くの樹木年輪を調査することで、別の「ミヤケ・イベント」を発見できるでしょうか?
年輪年代学では、別々の樹木であっても、同じ地域・時代に成長していれば年輪パターンが類似することが知られています。
つまり、さまざまな時代の樹木の共通部分を見つけて、つなぎ合わせるなら、1本1本の寿命は短くとも、何千年にもわたる「樹木年輪の記録」が作れます。
現在では、遺跡から発見された古い木材を活用することで、過去1万3000年間の年輪記録を確認できます。
そして三宅氏による最初のミヤケ・イベント発見後、多くの研究チームが、上記の年輪記録を利用してミヤケ・イベントの探索を行ってきました。

その結果、西暦775年以外にも、西暦993年、紀元前663年、紀元前5259年、紀元前5410年、紀元前7176年にミヤケ・イベントが発生していたと判明。
過去1万年間に合計6回の巨大太陽嵐が発生していたのです。
1000~2000年に1回、ランダムでミヤケ・イベントが発生していたことになります。
仮に現代でミヤケ・イベントが発生すれば、電子機器や通信システム、人工衛星は壊滅するでしょう。
ミヤケ・イベントが発生する次のタイミングを推測して防衛するためには、ミヤケ・イベントの原因を明らかにしなければいけません。
科学者たちの予想どおり、やはり大規模な太陽フレア「スーパーフレア」が原因なのでしょうか?