老いて死ぬまで1週間ごとに凍結と解凍を繰り返す

クマムシの寿命が尽きるまで1週間ごとに凍結と解凍を繰り返した
Credit:Canva . ナゾロジー

凍結中にクマムシの寿命の灯火は消費されているのか?

謎を確かめるために研究者たちはクマムシに対して凍結と解凍を繰り返すことにしました。

実験ではまず、500匹のクマムシが用意され、飼育環境に適応した時期を見計らってマイナス30℃で7日間、凍結させられます。

凍ったまま7日が経過すると、1日かけてゆっくりと解凍されされ、エサを食べるための活動時間が7日間与えられます。

そして再びマイナス30℃で凍結されて7日間、解答されエサを食べる7日間のサイクルが続きました。

この過酷な凍結と解凍のサイクルはクマムシの生涯をかけて、最後の1匹が死ぬまで繰り返されました。

また各解凍後には死んだクマムシが取り出され、常に生存数がチェックされました。

結果、凍結されていた時間は、クマムシの寿命にそのまま上乗せされることが判明します。

また凍結期間と凍結期間の間の活動期間の合計値の平均は、正常に暮らしていたクマムシたちの平均寿命に一致していることも判明。

さらに凍結されていた時期があるかにかかわらず、活動期間の最高記録は普通のクマムシの最高寿命と同等の値となっていました。

この結果は、繰り返し凍結されている間、クマムシの寿命は消費されておらず、活動時間の合計も寿命の最大値も凍結の影響を受けていないことを示します。

凍結中は生命活動が停止するため寿命の現象も止まる
Credit:Canva . ナゾロジー

同様の結果は、乾燥状態にあるクマムシにおいても報告されており、乾燥や凍結によって仮死状態にあるクマムシは、寿命を復活後に持ち越していると考えられます。

以前の研究では、仮死状態に陥ったクマムシの細胞では水分が失われて一種のガラス化を起こし、DNAは強固なタンパク質によって固められた状態になることが報告されています。

生命の老化は主に生命活動の影響(酸化など)でDNAが劣化することで起こります。

しかし細胞がガラス化してしまえば生命活動に由来するDNAの劣化も停止し、結果的に老化も起こらなくなると考えられます。

このような極端な停止状態は復活を約束されている死と同じと言えるでしょう。

寿命の持越しは限りなく死に近い状態を挟んでいるからこそ可能なのかもしれません。

しかし厳しい自然界において、常に仮死状態への移行がスムーズに行えるわけではなさそうです。

仮に死ぬのも楽ではない?

仮死状態のクマムシの寿命が保存されるという説は「眠りの森の美女」仮説として知られています
Credit:Canva . ナゾロジー

今回の研究により、クマムシは凍結状態にあるときには寿命を消費しないことが示されました。

研究者たちも「凍っているときのクマムシは眠れる森の美女のように体内時計を止めている」と述べています。

ただ全ての凍結が同じような結果をもたらすわけではないようです。

今回の研究ではクマムシにとって理想的な凍結環境が整えられていましたが、凍結まで早すぎたり逆に時間がかかり過ぎる場合などでは、クマムシは仮死状態に移行するのに失敗して本当に死んでしまうことが知られています。

また研究では凍結と凍結の間に十分なエサを食べる時間が与えられていましたが、エサが不足している場合では、仮死状態になるのに失敗して死んでしまうことがありました。

実際、仮死状態の前後において、クマムシの体内でエネルギーを貯蓄している細胞(人間の脂肪細胞のようなもの)が大きく縮小していることも確認されています。

このことから研究者たちは、クマムシにとって仮死状態への移行はかなりのエネルギーを使うものだと結論しました。

参考文献

Sleeping Beauty in an ice cube: How tardigrades survive freezing temperatures

元論文

Reduced ageing in the frozen state in the tardigrade Milnesium inceptum (Eutardigrada: Apochela)

提供元・ナゾロジー

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