今月4日(日曜)、カスピ海に面するロシア南部・ダゲスタン共和国の海岸で、2500頭を超える大量のアザラシの死体が打ち上がり、現場を騒然とさせています。
死体に人為的な傷や病変が見られないことから、当局の科学者は「自然要因(natural factors)による死亡」と発表しました。
しかし研究者らは目下、アザラシの死体サンプルを分析中とのことで、その結果が出れば、より詳しい死因が判明するでしょう。
アザラシの集団死は過去にも報告例があり、その頻度はここ数年で増加傾向にあります。
今回のケースは過去10年の中でも圧倒的に最多とのことです。
カスピ海アザラシの「謎の大量死」が増加中
カスピ海環境保護センター(CEPC)によると、今月3日(土曜)の時点で、ダゲスタンのカスピ海沿岸に約700頭のアザラシの死体が打ち上がっていたという。
しかしその後の24時間で数が急激に増加し、4日には2500頭を超えるまでになっていました。
死体は海岸や河口など複数箇所に分散しており、いまだ確認作業が継続中。今後、その数はさらに増える見込みとなっています。
CEPCのザウル・ガピゾフ(Zaur Gapizov)所長は取材に対し、「アザラシは2週間ほど前に死んだと見られ、体表には殺されたり漁網にかかったりした形跡はなかった」と話しています。
一方、ロシア連邦天然資源監督局(Rosprirodnadzor)のスヴェトラーナ・ラディノヴァ(Svetlana Radionova)氏は「カスピ海の天然ガス排出を主原因とする低酸素症(ハイポキシア)の可能性が高い」と指摘し、チームと調査を続けています。

今回、大量死したのはカスピ海にのみ生息する「カスピカイアザラシ(学名:Pusa caspica)」です。
カスピ海は東ヨーロッパと中央アジアの境にある塩湖で、”世界最大の湖”として知られます。
国際自然保護連合(IUCN)の調べでは、20世紀初めに約100万頭のカスピカイアザラシがいたものの、70%以上が死滅し、現在では27万〜30万頭にまで減っているという。
減少の主な原因は、人為的な乱獲(毛皮が革製品に利用できるため)や環境汚染による生息地の劣化、気候変動などです。
これを受け、カスピカイアザラシは2008年にIUCNの絶滅危惧種レッドリストに追加されました。

カスピカイアザラシの集団死は過去に何度か報告されていますが、近年、それが増加傾向にあるといいます。
たとえば、1年前にはカスピ海東岸のトルクメニスタンで、300頭以上のカスピカイアザラシの死体が発見されました。
また今年11月には、カスピ海北岸のカザフスタンでも140頭を超えるアザラシの死体が見つかっており、これを含め2022年内では3度の大量死が確認されています。
いずれのケースでも死体に目立った外傷がなく、臓器に重金属や農薬による中毒の兆候も見られないため、専門家らは「自然下での集団死」と結論せざるを得ないようです。
他方で、カスピ海沿岸ではアザラシの他に多くの魚や鳥の不審死体が散見されることがあり、専門家の中では「沿岸地域の工場が捨てた廃棄物による汚染死」を疑う声も根強くあります。
カスピカイアザラシの集団死が増加していることを踏まえると、死因の特定は急を要する事案でしょう。
参考文献
More than 2,500 dead endangered seals wash up on Russia’s Caspian coast after dying of ‘natural factors’ – but some speculate the deaths were caused by fossil fuel emissions
2,500 Dead Caspian Seals Were Spotted on Russia’s Caspian Sea Shore
提供元・ナゾロジー
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