マスク、行動制限、リモートワーク、Zoom会議……新型コロナウイルス(以下、コロナ)の影響で大きく変わった私たちの日常生活。変化に対応するには、これまでの価値観を見直したり、仕組みや習慣を変えざるを得ませんが、それは思った以上に心身の負担となっており、いま日本では多くの人が“うつっぽい症状”に悩まされています。
しかしその一方で、現状に苦痛など感じない人も同じくらいいるため、メンタル不調者との間に理解の乖離が生まれ、症状の悪化につながることも……。もし、家族や友人、大切な人が「うつ」になったとき、あなたならどうしますか? 新刊『家族が「うつ」になって、不安なときに読む本』を上梓した、うつ専門カウンセラーの前田理香氏が、メンタル不調者への寄り添い方をお教えします。
生活の変化がメンタル不調にも影響
先日、人事総務担当者を対象とした研修で、質問の手が挙がりました。
「コロナが流行したことでメンタル不調を抱える方が増えたという報道を目にします。私は、何も体の変化を感じていないのですが、関係があるのは本当ですか?」
私は、「もちろん、大きく関係していますよ」と回答しました。実際に、ネオマーケティング(東京都渋谷区)が2020年10月に実施したリサーチでは「新型コロナウイルス流行後にメンタルヘルスの不調を感じていますか?」という質問に対し、46.4%が「はい」と回答。約半数がメンタルヘルスの不調を感じているという結果です。
ほかにも、下記のように、さまざまな調査結果から、コロナによる生活の変化が、メンタル不調に大きな影響を与えていることが明らかになっています。
うつ症状を有する日本人の割合が、2013年の7.9%に対して、2020年は17.3%と大きく増加
〇「働く人のメンタルヘルスとサービス・ギャップの実態調査」(2021年9月、NTTデータ経営研究所)
回答者の約2人に1人が、精神的健康度が低く、うつ病や不安障害などの精神疾患を発症するリスクが高くなっている
〇「自殺者数」(2020年度、厚生労働省)
コロナ禍前(2009年度~2019年度)の実績をもとに算出した予測値に比べて、人口10万人あたりの自殺件数が、男性で17%、女性で31%増加。若者の自殺も増えている
このように明確な変化が表れているにもかかわらず、カウンセリングをしていると、コロナでメンタル不調になることに、十分な理解のない人も数多くいるように感じています。なぜ、このような乖離が生じてしまうのか。うつのメカニズムをもとに考えてみましょう。
メンタル不調には3つの段階がある
私たちは、メンタル不調を3段階に分けて「“疲労”うつの3段階モデル」と呼んでいます。
1段階疲労……通常の疲労。1日働いたあとに感じる疲労や、運動したあとに感じる疲労が1段階疲労です。
2段階疲労……コロナでの我慢や不安などにより疲労が蓄積し、いつもより2倍疲れて、2倍敏感になっている「2倍モード」の状態です。
3段階疲労……さらに疲労が蓄積すると、3倍疲れやすく、3倍繊細になってしまう3段階疲労に陥ります。この3段階疲労の状態は、治療や休養が必要となる段階です。
この「“疲労”うつの3段階モデル」を利用して、私たちのカウンセリング現場の感覚と先ほどのリサーチの結果を併せて、グラフに示すと下の図のようになります。

通常、つまりコロナの前までは、1段階疲労の人が7割を占めていました。2段階は2割、3段階は1割という配分です。ところが、いまは1段階疲労の人が5割に減り、2段階が3割、3段階が2割に増えています。
ここで考えるべきことは、1段階疲労の人の状況の捉え方です。社会を牽引している人は、1段階疲労であることがほとんどです。2段階疲労の人は疲れが2倍に、3段階疲労の人は疲れが3倍に感じているため、結果的に1段階疲労の人が社会を牽引することになります。
この1段階疲労にとって、コロナ以前にも周囲に不調になる人がいましたが、全体の3割ほどと少数派であったこともあり、「不調を抱えるなんて、それなりの理由があったのだろう」と考えることができました。
しかし今は、自分はまったく苦痛を感じていないにもかかわらず、多くの人がコロナで不調だといいます。そうなると、「うつの人は、やっぱり甘えているだけなのではないか……」と感じてしまいやすくなるのです。
社会を牽引しているのは1段階の人であることが多いので、職場のリーダ―などがよくこの意見を持っています。
また、家庭でも、社会からリタイアした60代~70代の両親が、必死に社会で頑張っている2段階、3段階の状態にある30代~40代の子どもに対し、「私たちが働いていたころより、リモートワークになって楽になったはずなのに、うつっぽくなるなんて考えられない、甘えだ、鍛えなければ……」と理解を示さないことも多いのです。