飛行機の墜落事故のニュースを聞くと、「パラシュートで脱出できなかったのだろうか?」と疑問に感じるかもしれません。
軍用機や訓練機には緊急時に利用できるパラシュートが搭載されていますが、民間人が利用する旅客機にはパラシュートが積まれていません。
なぜ旅客機には、乗客全員分のパラシュートが積まれていないのでしょうか?
インド・パンジャブ大学(Panjab University)に所属する理学士アシシュ・ティワリ氏は、その理由を解説しています。
パラシュートを使うには訓練が必要
旅客機にパラシュートが積まれていない理由は非常にシンプルです。
仮に全員分のパラシュートを用意したとしても、生存率はそこまで変わらないからです。
生存率が変わらない1つ目の理由は、乗客がパラシュート訓練を受けていない、ということです。
映画の脱出劇や、テレビ番組で芸能人がスカイダイビングをしているのを見ると、パラシュートの装着や使用が訓練の必要がないほど簡単に思えるかもしれません。
しかし、プロと2人1組で落下する方法でさえ、少なくとも30分の基礎訓練を行い、適切な指示を受ける必要があります。

高度4000mの飛行機から1人で飛び降りる場合には、まず地上講習を受ける必要があります。
その後は、ジャンプマスターとマンツーマンでスカイダイビングしながらトレーニングを積みます。
最低でも複数回のスカイダイビングを経験したのち、やっと1人で飛べるようになるのです。
そのため、素人がいきなりパラシュートを装着して旅客機から飛び降りることなど、到底不可能だと言えます。
そもそもパラシュートが必要になる緊急時では、装着すらできないでしょう。
事前に計画していた準備万全のスカイダイバーとは異なり、旅客機の乗客は大きな揺れとパニックの中、1~2分でパラシュートを装着しなければいけません。
しかも緊急用の酸素マスクを装着した状態で、その作業を行わなければいけないのです。
これだけでもパラシュートがない理由を理解できますが、パラシュートが生存率を上げない理由は他にもあります。
旅客機が飛行する高さからは飛び降りられない
旅客機にパラシュートを積んでも生存率が変わらない2つ目の理由は、旅客機が飛行する高度にあります。
スカイダイビングでは、高くとも高度4000mからの落下になります。
ところが、旅客機が飛行する高度は8000~1万2000mです。

これほどの高度では空気が非常に薄く、旅客機から飛び降りようとする乗客は、低酸素血症により意識を失ってしまうでしょう。
もちろん酸素ボンベがあればこの問題はクリアできますが、乗客全員分の酸素ボンベを積んで適切に装着させるのは現実的ではありません。
生存率が変わらない3つ目の理由は、旅客機の設計と速度にあります。
スカイダイビング用の小型航空機の胴体は非常に小さいので、スカイダイバーが飛び降りても機体に当たることはありません。

一方、大型の軍用機には、後部に立派なスロープがあり、こちらも難なく飛び降りることができます。
ところが旅客機は、非常に大きな胴体であるにもかかわらず、飛び降りるためのスロープがありません。
小さなドアから乗客全員が順番待ちで飛び降りなければならず、飛び降りたとしても大きな胴体や翼に激突する恐れがあるのです。
また旅客機は高速で飛んでいるため、機体に衝突しなくても、強烈な風圧で首などに大怪我を負うかもしれません。