海がないのに山なし県、なんて揶揄されることも多い山梨県ですが、とある海産物がお土産として名高いものとなっています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
山梨の伝統郷土料理「煮貝」
周囲を山に囲まれた内陸県である山梨県。県庁所在地である甲府市は一番近い海である静岡県の駿河湾からでも公共交通機関で数時間かかってしまう場所ですが、ここにはとある「海産物」を使った伝統食材があります。
それは「煮貝」。アワビを醬油やみりんでじっくりと煮含めたもので、たれとともにパック詰めにして売られています。
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食べるときはスライスしてそのまま食べるほか、付属の肝をマヨネーズと和えてつけて食べるというのも人気だそうです。アワビの資源量減少により価格は高騰気味ですが、今でも贈答品として根強い人気を誇ります。
なぜ海なし県でアワビが人気?
しかしなぜ、海のない山梨県でアワビを煮たものがこれほど親しまれているのでしょうか。
古来よりアワビは「精が出る食材」として知られ、干したものや塩漬けにしたものが各地に流通していました。山梨県にかつてあった甲斐国の武将・武田信玄もその栄養価に注目し、兵に食べさせる食材として取り寄せたのだそうです。
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その武田信玄に仕えた家臣の子孫が、江戸時代になってから「アワビの食感を保つべく醤油漬けにする」手法を思いつき、駿河湾で水揚げ時に醤油漬け加工したものを甲府まで輸送するようになったのが煮貝の始まりだとされています。
柔らかいのはなんで?
煮貝は、一般的なアワビの煮つけと比べると身が柔らかく、むちっとした歯ごたえが特徴です。アワビは硬いという先入観のある人が食べるとびっくりしてしまうかもしれません。
メーカーが詳しい製法をあからさまにしていないので推測になってしまいますが、おそらく「低めの温度で長時間加熱する」ことでこの食感を実現しているのだと思われます。
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もともと煮貝は「アワビのしょうゆ漬けが、輸送中に馬の背で揺られる中で(高温で知られる)馬の体温で温められ低温調理状態になったもの」だという言い伝えがあります。つまり煮貝が美味しいのは「山梨県が海から遠かったため」であるといえそうです。
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<脇本 哲朗/サカナ研究所>