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生成AIに対する著作権侵害訴訟が多発している米国で最初の判決が下りた。結論は陪審の事実認定に委ねたが、自身の役割である法解釈を示した判事は、生成AIに対する著作権侵害訴訟の先例となりそうな判決を下した。

判決の概要

法律情報サービスWestlawを所有するThomson ReutersがAIスタートアップのRoss Intelligence(以下、「ロス」)を訴えた事件(以下、「ロイター事件」)で、ロイターはロスがWestlawの表現を生成物に複製するようにAIを訓練したと主張。

対して、ロスはAIが判決の要約(headnotes)や分類方法(Key Number System)を学習したのは表現を複製するためではなく、言語パターンを分析するためだったと反論した。

デラウエア州連邦地裁はまず、サンフランシスコの第9控訴裁判所の中間的複製についての二つの判決を紹介した。

1992年のSega Enterprises v. Accolade事件(以下、「セガ事件」)判決では、セガのソフトウェアの機能を学習して互換機を開発するためにセガの著作権のあるコンソールコードを複製することはフェアユースにあたるとした。

2000年のSony Computer Enterprise v. Connectix(以下、「コネクティックス事件」)判決でもソニーのゲームと互換性のあるゲームプラットフォームを開発するためにソニーのソフトウェアを複製することはフェアユースであるとした。

その上で被告のAIが言語パターンを分析するためだけに学習したのであれば、変容的な中間的複製にあたるが、Westlawの編集者による創造的なドラフティングをAIに複製させるために判決の要約文を利用したのであれば、変容的な中間的複製にあたらないとした。

どちらに該当するかは事実認定が必要であるとして、陪審による事実審理に結論を委ねたが、機械学習に中間的複製の理論を適用したこの判決は、大規模言語モデル(LLM)や生成AIモデルの著作権侵害訴訟の先例となる可能性がある。

多くのLLMがそうしているように創造的な表現を複製する目的ではなく、言語パターンを学習する目的で著作権のある作品を摂取し、それらをAIの訓練用に使用することは変容的利用であると判示したからである(判決文)。

変容的利用とは

日本の著作権法30条4は、情報解析のための著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用を認めるが、こうした機械学習のための権利制限規定のない米国では、生成AIによる著作権侵害についても権利制限の一般規定であるフェアユースで判定することになる。

米国著作権法第107条に定める4要素を考慮してフェアユースに該当すると判定されれば、著作権者の許諾なしに著作物を利用できる。4要素の中でも米国の裁判所が重視するのが、第1要素の「利用の目的および性質」と第4要素の「原著作物の潜在的市場または価値に対する利用の影響」である。

米最高裁は1994 年のCampbell v. Acuff-Rose事件(以下、「キャンベル事件」)判決で、①変容的利用(transformative use)、つまり別の作品をつくるための利用であれば、第1要素はフェアユースに有利に働く、②原作品を代替する可能性も低いため原作品の顕在的市場および潜在的市場にも影響を与えないので、第4要素もフェアユースに有利になるとして、パロディにフェアユースを認めた。

それ以来、変容的利用にはフェアユースが認められやすい。下表のとおり多くの新技術・新サービスで変容的利用が認められた。

新技術・新サービス関連サービス合法化の日米比較

サービス名 ① 米国でのサービス開始 ② 米国でのフェアユース判決  

③ 日本での合法化(改正法施行年)

  ④ =③-① 日本での対応の遅れ リバース・エンジニアリング 1970年代* 1992年 2019年 40年以上遅れ 画像検索サービス 1990年代* 2003年 2010年 20年以上遅れ 文書検索サービス 1990年 2006年 2010年 20年遅れ 論文剽窃検証サービス 1998年 2009年 2019年 21年遅れ テレビ番組検索サービス 1999年 2014年 2019年 20年遅れ 書籍検索サービス 2004年 2016年 2019年 15年遅れ スマホ用OS 2005年 2021年 未定

*裁判例から推定した。

出典:城所岩生「国破れて著作権法あり~誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか」(みらい新書)