J6事件で今までに刑事告訴された者は1100人以上に上る。その容疑内容は、967人が立ち入り禁止の連邦建物や敷地内への立ち入りまたは滞在、372人が警官や職員への暴行・抵抗・妨害、310人が公的手続に対する不正な妨害、115人が政府所有物の窃盗または破壊、104人が武器の所持、そして42人が共謀罪だ(一部の者は容疑が重複)。

前記は24日の『The Hill』の「ニューヨークタイムズがJ6にUターンした理由」と題するリズ・ピークの興味深い記事から拝借した数字だが、75歳のベテラン記者は冒頭をこう書き出している。

ニューヨークタイムズは1月6日の暴徒に甘いのか? あの日の出来事に関する偏った報道を疑い始めているのか? 153年の司法省史上最大の犯罪捜査とされる抗議デモに対する捜査をちょっとやり過ぎだと思い始めたのか? それとも新たに公開された映像によって、トランプ前大統領弾劾に使われた偏向した下院の調査とは異なるストーリーが明らかになることを心配しているのだろうか?

「偏向した下院の調査」とは、共和党リズ・チェイニー(昨年の中間選挙で落選)が副委員長として主導したペロシ前議長肝いりの調査委員会を指す。リズ・ピークは、ジョンソン議長がJ6動画を公開したことで、米国民はその日実際に何が起きたのかを改めて知り、数百人のトランプ支持者が暴力的な暴動を起こしたという民主党に異議を唱える機会を得たとして、これを評価する。

続けてピークは、私たちが知っていることは、その日トランプ支持者が議事堂へと行進し、一部の武装した危険人物がジョー・バイデンへの平和的な権力移譲を妨害することを意図していたことだ。が、他の多くのそうではない人々は、民主党が選挙を盗んだと信じており、それに抗議するために議会に向かった群衆の後を付いて行った。その中には巻き込まれ暴動から逃れたが、後に投獄された者もいたと書く。

この一文を読んで筆者は、J6事件の翌2月20日に本稿に寄せた拙稿で、「議事堂乱入は扇動した過激な少数によるもので、大半は釣られた入った野次馬と見るべきだろう。その過激な少数にも親トランプと反トランプが混在するようだ」と書いたことを思い出した。

J6事件の裁判で検察側に求められることの一つに、トランプが「民主党が選挙を盗んだと信じて」いたかどうかの立証がある。この夏の『CNN』による世論調査で、バイデンの選出を正当と考える共和党員と右派無党派層はわずか29%で、69%がそうではないと考えおり、有権者全体でも38%がバイデンは違法な大統領だと考えているとの結果が出た(前掲『The Hill』)。トランプの内心は判らないが、そう考える者は少なくない。

ピークが記事にリンクを張った「X」には、警官二人に後ろ手の手錠姿で連行される一人の暴徒が、手錠を外されて警官とグータッチする様子が映っている。ピークは、これは群衆の中にFBIや警察が潜入していたことを示唆しており、彼らが国会議事堂襲撃を意図的に扇動したと非難する人もいて、この動画は昨春、ラウダーミルク行政監視小委員会委員長によって提起され、「私服警官(plain-clothes officers)」の存在について尋ねる書簡を当局に送った、と書いている。

カールソンがJ6動画の一部を公開した後の4月、保守系世論調査のラスムッセンが「政府の潜入捜査官(undercovers)が議事堂の暴動を誘発するのに協力した可能性があると思うか」と尋ねたところ、民主党支持者の59%、共和党支持者の62%、無党派層の74%がその可能性が高いと回答した。

同じ『The Hill』でも別の書き手の26日の記事は、ジョンソン議長がJ6動画の全てを公開して「議事堂襲撃事件に明るい光を当てることで政治的リスクも負う」とし、来年11月の選挙で「激戦区の弱い立場にある共和党員はあの日の出来事を再考することに消極的で、民主党の選挙運動員らは既にこの力関係を利用したいと考えている」と書いて、この中道の議会メディアの面目を施している。

4万4千時間の動画といえども、ネットで公開するなら、あっという間に「X」などのSNSであれこれ指摘される事態になるだろう。トランプはジョンソン氏には「J6テープを全て公開する勇気と不屈の精神がある」と「歓声を上げて」称賛した一方、ピークが書くように『NYT』はひっそりと予防線を張り始めたかも知れぬ。

J6動画の全面ネット公開が、トランプに有利に働くのか、それとも不利に働くのかは判らない。が、誰もが1月6日の出来事を検証できる様になったことは、情報操作や偏向報道の溢れる昨今、この上なく好ましい。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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