地方で行政書士事務所を開業している筆者は、1年前に離婚したという女性から「今からでも『慰謝料』を請求できますか?」という相談を受けたことがある。
離婚する時は、相手とは冷静に話し合いができず、ましてや金銭的なことなど口に出すのは、はばかられる状況である場合が多い。しかし、離婚後に、「あの時『慰謝料』をもらっておくべきだった」と後悔する人も少なくない。今回は、離婚の「慰謝料」を確実にもらう方法をご紹介する。
「慰謝料」とは何か?
他人から著しく名誉を傷つけられるような言動があった場合、刑法第230条の名誉棄損罪で刑事告発できる。一方民事では、民法第710条によって、慰謝料を請求できる。
この場合、慰謝料は名誉を傷つけられ精神的苦痛を受けたことへの損害賠償金を意味する。ポイントは、この精神的苦痛という点である。つまり、自分が受けた精神的苦痛を解消するためにはいくら必要か、いくらもらえれば納得できるかということを金銭に換算したものが、慰謝料である。
離婚の慰謝料も同じである。離婚の原因が夫の不貞行為(浮気)だった場合、妻は精神的な苦痛を受ける。離婚の原因を作った配偶者を有責配偶者と呼ぶが、その有責配偶者が相手方に慰謝料を支払う責任が発生する。
しかし、特にこれといった離婚原因がなく、どちらか一方が離婚を切り出す場合もある。この場合、離婚したいと思っている方が、相手方を納得させるために金銭を支払うことがあり、これを慰謝料と呼ぶ人もいる。しかし、有責配偶者が相手方の精神的苦痛を慰謝するために支払いものが慰謝料だから、厳密には慰謝料ではない。解決金と呼ぶほうがふさわしい。
「慰謝料」はいつまで請求できるのか?
離婚で問題になる金銭的事案には、「養育費」「財産分与」と「慰謝料」の3つがある。このうち養育費には、時効がない。
「養育費」は、未成年の子どもが親に請求できる権利であり、子どもの親を持つ親が、子どもの法定代理人として、一方の親に請求するという性質のものである。子どもは日々成長しており、その過程で「養育費」が必要となってくるわけだから、時効がないと考えるのである。
一方、「財産分与」と「慰謝料」には時効が存在する。財産分与が離婚後2年まで、慰謝料は離婚後3年までである。従って、離婚後相手方に慰謝料を請求するには、この時効の壁があることを十分認識しておく必要がある。
離婚の際に、子どもの親権と養育費、財産分与と慰謝料の内容と金額が決まった上で、離婚届を提出するのが、最も理想的だ。しかし、これはあくまでも理想であって、現実はそう上手くいかない。
最低限子どもの親権を決めて離婚する夫婦が大多数である。「1分1秒でも早く、解決したい」という心理が働くためである。
どうすれば確実にもらえるか?
もし離婚時に「養育費」の話をまとめたいのであれば、弁護士等の第三者に入ってもらい、話を勧める方法をお勧めする。ただ、費用がかかると心配されるのであれば、家庭裁判所の調停という方法もある。しかし家裁の調停は、1回で話がまとまることはなく、3、4回程度の調停が必要である。一般的に約1カ月に1回の調停だから、3、4カ月かかることになり、「とにかく早く離婚したい」と思う人には、もどかしい方法かもしれない。
そこで、早く解決したいと考える人は、弁護士を間に立て、「『慰謝料』の件がまとまらない限り、『離婚届』に判を押さない」として、話を進めることになる。その際、弁護士には離婚の原因となった証拠を提出する必要がある。例えば、浮気が原因であれば興信所等の報告書、暴力が原因であれば病院の診断書などである。
慰謝料の額や支払い方法が決まったら、離婚協議書を作成することになるが、できれば公正証書にしておくことをお勧めする。もちろんお互いの信頼関係で決めたことだから、「公正証書にする必要はないという人がいるかもしれない。しかし、公正証書にしておけば、支払ってくれない時、差し押さえの手続きが簡単である。
離婚届の提出前に、慰謝料の全額を支払ってくれるのであれば問題ないが、離婚届提出の前後で慰謝料を分割して支払う場合には、是非公正証書にしておくべきである。
慰謝料の交渉は、弁護士の独占業務であるが、一旦話がまとまった離婚協議書を公正証書にする業務は、行政書士でもできるようになっている。
冒頭述べたように、1年前に離婚した女性から「今から『養育費』を請求したい」という相談を受け、内容証明を作成し、相手方に送ったことがある。その後、家裁の調停で話がまとまり、無事に相談者は養育費を受け取れるようになった。
このように養育費であれば、離婚後の請求も比較的楽であるが、慰謝料の場合、請求された相手方とすれば、「今さら何を言ってるんだ」となり、ハードルは高いと思う。従って、慰謝料に関しては、できれば離婚の際に決着をつけておくべきである。
文・井上通夫(行政書士)/ZUU online
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