アジ、サバと並び、大衆魚の代表ともいえるイワシ。しかし前の二つと異なり、「イワシ」とされる魚にはいくつかのグループが含まれます。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
イワシとは「一言で言えない魚」
我が国の食卓を支える「大衆魚」の代表と言えば、アジ、サバ、そしてイワシの3種です。
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これらの名称はマアジ、マサバ、マイワシといった代表種をはじめいくつかの種の総称なのですが、アジと呼ばれる魚はいわゆる「アジ科」に、サバと呼ばれる魚は「サバ科」に含まれる一方、イワシと呼ばれる魚は「イワシ科」というわけではありません。それどころか、同じ科に含まれないいくつかの魚を総称したグループなのです。
「イワシはニシンの仲間」は昔の話
流通上イワシと呼ばれる魚にはマイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシの3種があり、これらはしばしば「イワシ御三家」と呼ばれています。
これらの魚のうちカタクチイワシは口が大きく裂けた外見が特徴で「カタクチイワシ科」というグループに含まれます。同じ科には福岡県のみで漁獲される食用魚のエツ、あるいは世界で最も水揚げが多い魚であるペルーのアンチョベータなどがあります。
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残りのマイワシとウルメイワシはしばしば混獲され、同じような使われ方をされるためいずれも「ニシン科」に含まれていました。そのため「イワシはニシンの仲間」としばしばいわれてきましたが、近年ウルメイワシが新たに「ウルメイワシ科」に再分類されることになりました。
マイワシこそ現在でもニシン科なのですが、御三家の1つがそうだからと言って「イワシはニシンの仲間」と言い切ってしまうのはちょっと乱暴だと言える状況になったのかもしれません。
「イワシ御三家」は入れ替わる!?
さてそんな「イワシ御三家」ですが、地域によってはそもそもこの用語自体が死語となる可能性が出始めています。
本州南部に当たる和歌山や三重の海では近年、代表種であるマイワシの漁獲量が減る一方で「カタボシイワシ」という新顔のイワシの漁獲が増えています。カタボシイワシはマイワシと似ていますがより平べったい体形をしており、またマイワシよりも大きく成長します。
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身質や味は悪くないものの、マイワシと比べると小骨が固く、食材としての評価は大きく下がっています。食べるときは骨切りをする、もしくは酢締めや揚げ物にするなどの工夫が必要です。
最近では分布域が一気に北上し、茨城県でも水揚げが見られるようになっています。今後は全国的な魚となる可能性もあり、場所によっては「イワシの代表種はカタボシイワシです」となるところも出てくるかもしれません。
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<脇本 哲朗/サカナ研究所>