改行時の視線移動が読むスピードを遅くする

そこでレディング大学のマリー・ダイソン氏らの研究チームは文字の大きさを一定にし、一行当たりの文字数を多くすることで読むスピードがどう変わるのかを検討しました。

実験に参加したのは、大学生48名です。

参加者は①一行が25文字の文章を読む人と、②一行が55文字の文章を読む人、③一行が100文字の文章を読む人、3つのグループに分けられました。

実験で用いられた、一行が25文字、55行、100文字で構成した文章を改変。
実験で用いられた、一行が25文字、55行、100文字で構成した文章を改変。 / Credit: Dyson & Kipping, (1998)

実験の結果、文字を小さくし一文の文字数を多くした場合と同様に、一文を構成する文字数が多いほど読むスピードが速くなる傾向が確認されました。

この結果は、スマホやkindleを縦画面から横画面にし、一行当たりの文字数を増やすことで読むスピードを速めることができる可能性があると言えるでしょう。

ではなぜ一行の文字数を多くすると読むスピードが速くなるのでしょうか。

それは、人が文章を読む際にもっとももたつくポイントが改行時であるためだとされます。

行の終わりから次の行の先頭まで視線移動を行った際、間違った行を次の行と認識し読み始めてしまったり、正しい行を確認するために行を確認し直すなどの作業を人は行います。

これが読書スピードを下げる原因になってしまうのです。

こうした問題は、近年の研究でも示されています。

その研究では一行の終わりから新しい行の先頭に戻る際に、多くの人がまず先頭よりも少し進んだ部分に視線を置き、そこから先頭に視線を移動させていることがわかっています。

一行の終わりから新しい行の先頭に戻る際に、先頭よりも少し進んだ部分に視線が移ってから、さらに先頭に移動する
一行の終わりから新しい行の先頭に戻る際に、先頭よりも少し進んだ部分に視線が移ってから、さらに先頭に移動する / Credit: Canva

そのため、一行に占める文字数を増やし改行タイミングを減らせば、改行時のもたつきが減り読む速度を早くできると考えられるのです。

しかし一行が長ければ良いというわけではありません。

日本語の文章では、一行当たりの文字数が約20から29文字のときに読むスピードが頭打ちになってしまうようです。

日本の公立はこだて未来大学の小林順平氏ら研究チームは、電子リーダーの一行の表示文字数を5、11、20、29、40文字の条件を設け、読むスピードを比較しています。

実験で使用された、電子リーダーに表示した文章。文章は夏目漱石「こころ」冒頭を抜粋。
実験で使用された、電子リーダーに表示した文章。文章は夏目漱石「こころ」冒頭を抜粋。 / Credit: 小林ら (2016).

結果、一行当たりの文字数が多くなるほど、読むスピードが速くなりました。しかし、一行当たりの文字数が20文字と29文字のあたりでほぼ頭打ちになることが確認されましたのです。

また文字数が20と29文字の時に読者から最も好まれたことも分かっています。

一行当たりの文字数が長くなると、改行でもたつく頻度は減らせますが、一行が長くなりすぎると結局改行時に行の先頭へ戻る視線距離が長くなるため、読む速度を向上させる効果は打ち消しあってしまうようです。

文章を読むときには、文字を小さくし一文当たりの文字数を20-29文字にして読む(文字が小さくて読みづらい人は、スマホの画面を横にして表示文字数を増やす)のはいかがでしょうか。

そうすることで文章を速く読むことができるかもしれません。

元論文

Eye Movement Measurement of Readability of CRT Displays

The effects of line length and method of movement on patterns of reading from screen

How physical text layout affects reading from screen

So Much to Read, So Little Time: How Do We Read, and Can Speed Reading Help?

日本語リーダーにおける読み速度と眼球運動の行長依存性に基づく最適行長の検討

ライター

AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。