実際に手術を受けた患者も男性だと女性医師の方が痛くない?

これらの結果を受けてエンスコフ氏らは、実際に手術を受けた直後の患者を対象に、医師の性別によって痛みの報告レベルが変わるかどうかを検証しました。

第三の実験:手術明けの患者を診察する

この調査では、地元のスコーネ大学病院(Skåne University Hospital)に協力してもらい、手術明けの患者245名に約15分間の診察を行います。

患者はこれまでと同様に、男性と女性の両方の医師から同じように診察を受けました。

その結果、男性患者ではやはり、医師が女性の場合にのみ、痛みの報告レベルが有意に低下することが確認できたのです。

ただ、今回は女性の患者では同じような効果が見られませんでした。

男性患者の痛みレベルは実験者が女性(白)のときに有意に低下していた
男性患者の痛みレベルは実験者が女性(白)のときに有意に低下していた / Credit: Anna Sellgren Engskov et al., Biology of Sex Differences(2023)

以上の結果から、男性は治療にせよ診察にせよ、女性の医療従事者に処置してもらうことで痛みを感じにくくなると結論されました。

本研究について、同チームのヨナス・アケソン(Jonas Åkeson)氏は「今回の報告は患者の痛みレベルが医療従事者の性別によって変わることを、健康な被験者と実際の患者の両方で確認できた初めての研究です」と指摘。

また「この新たな知見は、患者がより良いケアと痛みの治療を受けることに役立つでしょう」と述べました。

一方で、なぜこのような性差が表れたのかはよく分かっていません。

特に2つ目の実験では、男女の被験者共に女性が監督している場合に電気刺激による痛みへの閾値が高くなっていました。

ここからは女性の存在が男女どちらに対しても痛みへの感受性に影響を与えている可能性が示唆されます。

エンスコフ氏は考えられる要因の一つとして、「女性の医療従事者の方が笑顔や患者とのアイコンタクトが多い」という先行研究の結果を引いて説明します。

しかし今回の研究では、医師役の言葉遣いなどを男女で同じにしているので、これが正確な説明になっているとはいえません。

また女性の方が共感性が高いことから、それが痛みの緩和させている可能性も考えられますが、やはり男性のみに影響が出る理由は、これだけでは説明が付きません。

ただ、男性の心理面に女性が与える影響がとてつもなく大きいことは周知の事実でしょう。

特に男性と女性では社会心理学的に役割としての期待値が異なります。男性の方が女性より強いことを求められる先入観は、女性の存在が男性だけに痛みを緩和させる結果に関連している可能性は高いでしょう。

そう考えると、単に男性は女性の前で我慢強くなっているだけの可能性も考えられますが、こうした性差を正しく理解することは、医療現場における診断の精度を上げるために役立つ可能性があります。

よくどこがどの程度痛むかという患者の主観的な報告が、診断において重要になる場合がありますが、ここに男女の医療従事者で患者の報告に違いが生まれることが分かれば、より正確な診断ができるようになるかもしれません。

最近の研究では、客席に女の子がいると少年合唱団の声質が高まることが示されています。

男性にとって女性の存在は、女性にとっての男性の存在よりも幅広い影響をもたらしているのかもしれません。

客席に女の子がいると「少年合唱団の声質が高まる」と判明!

参考文献

Men experience less pain when a woman is in charge

Men have a higher pain threshold when females are treating them

元論文

Single and double pain responses to individually titrated ultra-short laser stimulation in humans

Randomized cross-over evaluation of investigator gender on pain thresholds in healthy volunteer

Prospective paired crossover evaluation of potential impact of investigator gender on perceived pain intensity early after acute or scheduled surgery

Perception of nociceptive pain. Perspectives on induction, evaluation and gender.

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。