年末年始に映画を観に行く機会も多いだろう。しかし、上映が始まると、予告で楽しみにしていた期待値とは裏腹に、つまらない作品だということに感づいてしまった。こんな時、あなたならどうするだろうか。映画が始まって30分、残りの2時間を我慢して映画館の座席にとどまるか、潔く席を立つか。多くの人は前者を選択するだろう。この選択の陰には、サンクコストが大きな影響を及ぼしている。では、そのサンクコストとは一体どのようなものか。
取り戻せない埋没した費用がサンクコスト
冒頭の映画の例で、つまらない作品にも関わらず、上映途中で映画館を後にするのを躊躇させる要因としては、すでに映画のチケット代を支払い、上映後30分の時間が経過してしまっていることが挙げられる。お金を払ってしまい、途中まで観たので、たとえつまらない作品でも、最後まで観賞して元を取ろうと考えてしまうのだ。
ここでのチケット代や30分という時間は、たとえ作品がつまらないと映画館のスタッフにクレームをつけたところで、決して取り戻せるものではない。つまりチケット代と30分という時間は埋没(サンク)したコストとみなされる。
合理的に考えれば、このサンクコストは返還できない性質のため、本来であれば、映画が面白くない場合、さっさと映画館を後にして、残りの時間を買い物や食事などに充てて時間を過ごせば、つまらない映画に残り2時間付き合うより、有意義な時間を楽しめる。
チケット代がもったいないと考えるなら、潔く映画館の席を立ち、残りの2時間をバイトや仕事に充てれば、チケット代を取り戻す稼ぎを上げることも可能だ。しかし、実際のところはこのサンクコストが妨げとなり、上映途中で席を立つという賢明な選択ができなくなってしまうのが常だ。
投資で陥るサンクコストの罠
映画のケースであれば、時間を有意義に過ごせなかったという日々の話で済むかもしれないが、サンクコストは投資や事業にも大きな影響を及ぼし、時として映画の例とは比にもならないほどの損失をもたらすこともある。
2017年、日経平均株価は続伸し、また仮想通貨ビットコインの高騰も話題となった。保有していた株や仮想通貨の評価額が上がって気分をよくしているが、もし株価や仮想通貨の価格が反転した場合はどのように対応するのか。
例えば100万円で株を手にし、150万円まで上昇後、70万円まで急落した場合、プロであれば損切りを実施し、ロスを最小限にとどめる。一方、経験の浅い投資家であれば、150万円まで上昇した時の高揚感が忘れられず、利益は確保できなくても、買値の100万円まで値が戻るまで様子を見ようと、株価の急落に対し、何の対応をしないケースが目立つ。しかし、その後も株価はずるずると下落傾向が続き、損失が増々拡大するという事態に陥ってしまうこともある。
投資家の心理として、70万円まで株価が下がった時点で、30万円の損失を抱えているという呪縛に取り付かれてしまう。見方を変えれば、株価は下がったが、まだ70万円の投資資金があり、別の有望株に投資を切り替えて、損失をリカバーできるチャンスはある。しかし、30万円の損失というサンクコストに固執してしまい、損切りという判断ができない状況に陥ってしまうのだ。
経営判断ではサンクコストの餌食に要注意
企業としての成長を見据え、日々、重要な決断を迫られる経営者にとっても、サンクコストは強敵となる。時代の変化に合わせ、新規事業への参入を決定したものの、数年の準備期間を経て、いざ始動する時期になると、マーケットの状況が激変しているという事態は頻繁に発生する。目利きの経営者であれば、現在のマーケットの潮流を読み取り、激変した市場環境では、利益は確保できないとして、新規参入を見送る英断を下す。
しかし、多くの経営者は、新規参入までに要した時間、コストを惜しみ、マーケットの変貌を自覚しながらも、せっかく事業立ち上げまできたのだから、計画通り実行することにこだわってしまう。結果として、新規参入は失敗し、会社は大きな損失を被る。サンクコストの餌食になってしまった結果、経営判断を誤り、事業が立ち行かなくなってしまう危険性すら潜んでいるのだ。
サンクコストは、人間の心理に大きな影響を及ぼし、合理的な判断を遠ざけてしまう。経済学では人間は合理的に行動するという前提に立っているが、ノーベル経済学賞でも注目が集まった行動経済学は人間の行動の非合理性に着目しており、非合理的な判断を引き起こすサンクコストに注意して、2018年は日々の行動の選択、判断を試みたいところだ。
文・MONEY TIMES 編集部
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