芥川賞受賞直後に書かれた幻の表題作のほか、本シリーズでしか読めない貴重な作品を収録。

河出書房新社が遠藤周作生誕100年を記念し、初期作品シリーズの最新刊『砂の上の太陽 遠藤周作初期短篇集』を発売した。

『砂の上の太陽 遠藤周作初期短篇集』が刊行

河出書房新社では、現在ではなかなか読むことのできない遠藤周作の貴重な初期作品を集めた「遠藤周作初期作品シリーズ」を発刊している。

今回、遠藤周作の生誕100周年を祝して刊行された『砂の上の太陽 遠藤周作初期短篇集』は、1955年「白い人」で芥川賞を受賞した直後に書かれた幻の表題作のほか、遠藤文学の道標となる全9篇を収録したシリーズ最新刊だ。

フランス留学時代の体験を綴った「ぼくたちの洋行」「あわれな留学生」、遠藤文学の重要なテーマである「母なるもの」を想起させる「ピエタの像」、異国の地で出逢った老人の自殺の報から人生の黄昏を描く「ナザレの海」のほか、「英語速成教授」「エイティーン」「小鳥と犬と娘と」「除夜の鐘」を収録している。

いずれも、のちの遠藤作品への重要なアプローチとなる感動作だ。

今井真理氏が同書を解説

本シリーズの解題・解説を担当するのは、日本近代文学・現代文学が専門の文芸評論家である今井真理氏。今井氏は同書の作品や遠藤文学のテーマについて次のように語っている。

「本書『砂の上の太陽』に収められた短篇は遠藤周作の初期作品であり、そこにはみずみずしさと共に青年のもつその時代の悲しみや行き場のない怒りや、越えられない様々な壁が描かれている。

そして、青年遠藤が取り組んだ、色、つまり人種問題や、留学時代に見せつけられた“悪”の問題、キリスト教がどのように日本に根付くのかなどが問われたといえる。そして、それらはのちの遠藤作品の種としてたしかに存在する。

その後、遠藤周作は作家としての円熟期を迎え、代表作である『沈黙』や『死海のほとり』『侍』『スキャンダル』『深い河』へと歩を進め、遠藤文学は「母なる基督」をテーマに赦す神、同伴者イエスを獲得していく。

それらのテーマは時代を超え、現代を生きる私たちに人間にとって本当に必要なものは何か、祈ること、愛すること、共に生きることの意味などを伝えていく」(原文ママ)

日本の文学史において重要な功績を残した遠藤周作の初期作を読むことで、自身の教養を高めたい。

砂の上の太陽 遠藤周作初期短篇集
仕様:四六判/上製/216ページ
定価:1980円(税込)

(IKKI)