食べられることで版図を拡大する昆虫が日本にいたようです。

神戸大学大学院 理学研究科チームはこのほど、枝そっくりの飛べない虫「ナナフシモドキ」(以下ナナフシ)が鳥に食べられることで、卵を日本全国に長距離拡散している証拠を発見しました。

もちろんナナフシ自身は死んでしまうものの、体内にあった卵が無傷のまま排泄され、新天地で孵化するという。

ナナフシにとって自らの死は始まりに過ぎないのです。

研究の詳細は、2023年10月11日付で科学雑誌『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』に掲載されています。

ナナフシは「食べられて拡散できる」条件が揃っている

生物にとって移動は、種の多様性を促進するための重要なステップです。

主な移動方法には、ヒトや鳥のように自らの移動能力によって各地に広がる「能動分散」と、植物のように鳥や哺乳類に食べてもらって種子を拡散させる「受動分散」があります。

一方で、鳥や哺乳類は植物だけでなく、いろんな昆虫も食べています。

このことから研究チームは「昆虫が鳥に食べられた場合、体内の卵が消化されずに排泄される受動分散が起こりえるのではないかと考えていました。

チームによると、昆虫が受動分散を成功させるには次の3つの条件が必要だといいます。

(1)体内の卵が捕食者(鳥や哺乳類)の消化管を無傷で通過するほど丈夫なこと

(2)捕食者のうんちの中で孵化した幼虫は、餓死しないよう自力で餌場にたどり着けること

(3)昆虫の卵の受精は産卵直前に行われるため、メスの体内にある卵が未受精でも子供を産める、つまり単為生殖(メスのみで繁殖する能力)できる種であること

この3つの条件があれば、受動分散によって種の生息域を広げることが可能だという。

そしてこれらすべてをクリアしている昆虫が「ナナフシ」だったのです。

ヒヨドリに捕食されるナナフシ
Credit: KOBE UNIVERSITY – Death is only the beginning: Birds disperse eaten insects’ eggs(2023)

ナナフシは植物の種子のように硬い殻に包まれた卵を産みます。また生まれたときから大人と同じ形で、自ら歩くことができます。

さらにナナフシは基本的にメスだけで繁殖できる種です。

オスとの交尾も行いますが、非常に珍しく、そもそもオス自体の発見が難しいといいます。

そこでチームは2018年に、ナナフシの受動分散が理論的に可能か調べるため、卵をヒヨドリに食べさせてみました。

すると一部の卵が無傷のまま排泄され、幼虫が問題なく孵化できることが確認されたのです。

加えて、ナナフシの成虫は頻繁に鳥に食べられていることや、メスのお腹には成熟して硬くなった卵がたくさん入っていることも分かりました。

これらを総合すると「ナナフシが鳥に食べられた場合、卵が消化されずに排泄され、それが孵化して分布拡大に寄与する」というのは十分にありえる話なのです。

その一方で、ナナフシの受動分散が野生下で本当に種の分布拡大に寄与しているかどうかは不明でした。

そこでチームはあるポイントを調べることで、ナナフシの受動分散が実際に起こっているかどうかを確かめました。