エルドアン大統領は欧州では「交渉相手としては手ごわく、出方が前もって予想できない指導者だ」と受け取られている。エルドアン大統領のトルコは地政学的な観点から見るならば、「非常に重要なポジッションにある」(オーストリア国営放送ドイツ特派員)ことは間違いない。
例えば、ウクライナ戦争での穀物輸出問題ではトルコはロシアとウクライナの両国間の調停役を演じ、スウェ―デンNATO加盟問題では依然、加盟の批准を拒否し、ストックホルムのNATO加盟にブレーキをかけ、欧州連合(EU)との難民収容協定(2016年締結)問題では協定の延期交渉が控えている(トルコ国内には数百万人の難民、特にシリア難民が収容されている)。すなわち、エルドアン大統領の意向を無視しては決定できないテーマが山積しているわけだ。
エルドアン大統領はベルリン訪問時には、トルコのEU加盟の早期実現を強く要求する一方、EU諸国へのビザ発給の迅速化を求めるなど、抜け目がない。ドイツにとってもトルコは重要な貿易相手国だ。国内には約500万人のトルコ系国民は住んでいる。エルドアン大統領のドイツ訪問では、トルコの与党「公正発展党」(AKP)を支持しているトルコ系住民は大歓迎する一方、反対派はエルドアン大統領の独裁的な政治を批判するといった具合で、ドイツのトルコ・コミュニティは完全に分裂している。
ドイツ民間ニュース専門局ntvは17日、「エルドアン大統領はモスクワとNATOの間でダブルゲームをプレイしている。エルドアン大統領の下、トルコはロシアによるウクライナ攻撃以来、繰り返し微妙なバランス調整を進めている。西側諸国との同盟、モスクワとの取引、ウクライナの工場――エルドアン大統領はあらゆるところで多大な問題を引き起こして、最終的に利益を得るのは主に彼自身である」と、エルドアン大統領の政治を辛らつに評している。
ショルツ首相は記者会見で、「われわれは非常に困難な時代に直面している。それだけに、指導者間の直接対話は大切だ」と述べ、ボスポラス海峡からのゲストとの会談の意義を説明している。
なお、ベルリンで18日夜、サッカー国際親善試合、ドイツ対トルコの試合が行われるが、エルドアン大統領は試合を観戦せずに、「トルコに戻って観る」という。それを聞いて、トルコ大統領の安全対策に腐心してきたドイツの治安関係者はホッとしたことだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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