武家社会の歴史を持つわが国では「戦士っぽい」名前を付けられた魚が少なからずいますが、なかには英語名もそのような魚がいます。

(アイキャッチ画像提供:茸本朗)

硬い鱗の『エビスダイ』は日本でも海外でも「戦士っぽい」名前を持つ

武家を彷彿とさせる魚たち

武家社会が長く続き「侍」に親しみを持っている我々日本人は、魚に「侍っぽさ」を見出してそのような名前を付けることがしばしばあります。

その一つが「アツモリウオ」。この名は平安時代の武将「平敦盛」に由来しているのですが、その見た目が鎧兜を背負った平敦盛のように無骨かつ派手なためだといわれています。

硬い鱗の『エビスダイ』は日本でも海外でも「戦士っぽい」名前を持つアツモリウオ(提供:PhotoAC)

またこれは標準和名ではないのですが、瀬戸内海に多く生息する「セトダイ」という魚は、瀬戸内西部で「トモモリ」、あるいはそれが訛った「タモリ」という名で呼ばれています。これは敦盛と同じ平家の武将である平知盛に由来しているそうです。

「具足鯛」「鎧魚」とはどんな魚か

このように、特定の武将の名前を冠した魚というのはいくつかいるのですが、そうではなく単純に「武将っぽい見た目」というところから名づけられた魚もいます。それが「グソクダイ」。

硬い鱗の『エビスダイ』は日本でも海外でも「戦士っぽい」名前を持つグソクダイ(提供:茸本朗)

この魚は標準和名をエビスダイというのですが、どちらかというとグソクダイのほうが通りが良いようです。グソクとは具足、つまり簡易的な鎧兜のことを指します。

この魚、シルエットや色合いはタイに似ているのですが、全身がガラスのような硬い鱗で覆われ、さらに頭部はまるで殻のような強固な皮膚に覆われています。まるで甲冑を着込んだ魚みたいなのでこのような名前となっているのです。

英名も「兵士の魚」

具足というのは日本の鎧であり、グソクダイとはいかにも日本らしい名前ですが、面白いことにこの魚は英語圏でも似たような名前で呼ばれています。

その名も「Soldier fish」つまり兵士の魚ということになります。日本語と同様に、まるで甲冑を着込んだ中世の騎士のように見えるためにこう名付けられたのでしょう。

硬い鱗の『エビスダイ』は日本でも海外でも「戦士っぽい」名前を持つグソクダイの鱗(提供:茸本朗)

ちなみにこの魚、身は柔らかく脂がのっており、知る人ぞ知る絶品魚となっています。調理のためには硬い鱗を一枚ずつ丁寧にはがす必要がありますが、その価値は十分にある魚といえます。

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