少し、アブラハムについて説明する。アブラハムには妻サラ(正妻)がいたが、年を取り子供はいなかった。そこでサラは仕え女のハガルにアブラハムの子供を産むように勧める。アブラハムはハガルとの間に息子イシマエルを得る。イシマエルはアラブの先祖だ。神はハガルとイシマエルに対しても「将来、大きな民族として栄えるだろう」と祝福している。イシマエルから派生したアラブでイスラム教が生まれ、今日、世界に広がっているわけだ。

一方、神はサラにも1人の息子イサクを与える。そのイサクからヤコブが生まれた。ヤコブは母親の助けを受け、イサクから神の祝福を受けた。そのため、イサクの長男エサウは弟ヤコブを憎み、殺そうとしたので、ヤコブは母親の兄ラバンの所に逃げる。そこで21年間、苦労しながら、家族と財産を得て、エサウがいる地に戻る。その途中、夢の中で天使と格闘し、勝利する。その時、神はヤコブに現れ、「イスラエル」という名称を与えている。

米イェール大学の聖書学者、クリスティーネ・ヘイス教授は、「名前を変えるということは、その人間の性格が変わったことを意味する」と解釈している。すなわち、ヤコブは21年間、伯父ラバンの下で苦労した後、謙虚になり、信仰を深めていった。そこで神はヤコブに将来の選民の基盤が出来たとして「イスラエル」という名前を与えたわけだ。故郷に戻ったヤコブは、エサウと再会し、和解した。アダム家の長男カインが弟アベルを殺害して以来続いてきた兄弟間の葛藤はこの時、初めて和解できたわけだ(「『アブラハム家』3代の物語」2021年2月11日参考)。

イスラエルの著名な歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏はレックス・フリードマン氏のポッドキャストでイスラエルの現状について、「問題が国家的、民族的なものだったら、妥協や譲歩は可能だが、信仰や宗教的な対立となれば、妥協が出来なくなる。イスラエルとパレスチナ問題は既に宗教的な対立になっている」と述べている。宗教指導者には責任がある。たとえ、砂漠で叫ぶ声となったとしても、言わなければならないのではないか。兄弟関係ならば猶更だろう。「十分だ、もう十分だ。兄弟よ」と。

querbeet/iStock

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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