バルグーティ氏の問いかけを考える前に、「ハマスとパレスチナ人は別だ」ということをもう一度確認する必要がある。中国共産党政権と中国国民とは違うように、イスラム過激テロ組織「ハマス」と大多数のパレスチナ人とは別だ。イスラエルを占領国というより、パレスチナ人はハマスに支配され、統治されている住民というべきではないか。実際、イスラエル軍はガザ地区で本格的な軍事活動をする前にガザ市民を避難させるために南部に移動するように何度か要請している。どの国の占領軍が住民に戦禍を避けるために避難を求めるだろうか。
ただ、問題はある。イスラエル軍の目的がハマスの壊滅だとしても、戦闘で多くの民間人、住民、子供たち、女性たちが犠牲となることは避けられないことだ。だから、ハマスはイスラエル軍の空爆を受ける度に、負傷したパレスチナ人を映像に流して、イスラエル軍の非人道的な戦闘を国際社会に訴える。バルグーティ氏が「ハマス」を「パレスチナ民族解放運動」と考えるならば、イスラエル軍の攻撃を支持する欧米諸国のダブルスタンダートが問われることになるかもしれない。
ところで、ニューヨークの国連総会で先月27日、イスラエルとイスラム過激テロ組織「ハマス」の戦闘が続くパレスチナ自治区ガザを巡る緊急特別会合が開かれ、ヨルダンが提出した「敵対的な行為の停止につながる人道的休戦」を求める決議案が賛成120票、棄権45票、反対14票で採決されたばかりだ。
アラブ諸国がまとめた決議案ではイスラエルをテロ襲撃したハマスの名前は言及されず、ただ、10月7日以後のイスラエル軍の報復攻撃の激化に対する懸念だけが表明され、「敵対行為の停止」につながる「即時恒久的かつ持続可能な人道的停戦」を求めている。
同決議案に反対票を投じた国は、イスラエル、米国、グアテマラ、ハンガリー、フィジー、ナウル、マーシャル諸島、ミクロネシア、パプアニューギニア、パラグアイ、トンガ、オーストリア、クロアチア、チェコの計14カ国に過ぎない。イスラエルを支持し、連帯を表明してきたドイツ、英国は棄権し、フランスは賛成票を投じている。欧米諸国でもパレスチナ問題ではコンセンサスがないことが分かる。
独週刊誌シュピーゲル(10月21日号)には読者から大きな反響を呼んだエッセイが掲載されていた。タイトルは「南から観た中東」で、インド出身でロンドンに住む著作家パンカジ・ミシュラ氏(Pankaj Mishra)が、「イスラエルとパレスチナ紛争で誰が犠牲者で誰が加害者か」と問いかけている。エッセイではグローバルサウスの視点から中東情勢を眺めている。そして欧米諸国のモラルや価値観が決して世界共通のものではないという現実を浮かび上がらせている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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