楽天グループ(G)は9日、2023年第3四半期(1~9月期)連結決算(国際会計基準)を発表し、最終損益が2084億円の赤字となった。同期間の赤字は5年連続であり、赤字の要因である携帯電話事業の営業損益は2662億円の赤字。前年同期の3714億円の赤字から赤字幅は縮小したものの、携帯電話事業がEC事業と金融事業の利益を食いつぶす構図は続く。24~25年には8000億円の社債償還が控えており、資金繰り悪化への懸念が出るなか、楽天グループの成長の源である楽天ポイントサービスに関係する楽天ペイメントを傘下に持つ楽天カードを上場させるとの観測も流れており、楽天Gの動向が注視されている。

 楽天Gは20年に子会社の楽天モバイルを通じて携帯電話事業のサービスを開始して以降、同事業は赤字が続いている。9日に行われた決算説明会によれば、6月に始まった「最強プラン」の影響もあり、回線契約数は増加し同期の契約数は551万回線(MNO回線とMVNO回線の合計)となり、前年同期比で13%増加。単月黒字化に必要な契約数とする800万~1000万契約の達成時期について24年末とし、通期黒字化の達成については25年をメドとするとした。

 最近の楽天Gをめぐる動向として注目されているのは大きく2つ。10月、総務省は楽天モバイルに700MHz帯、いわゆるプラチナバンドを割り当てることを発表。楽天モバイルが今後10年間で計544億円を投資し、既存の1.7GHz帯の基地局に700MHz帯の無線機器を設置していく。

 もう一つが、みずほフィナンシャルグループ(FG)による楽天証券への追加出資だ。楽天Gは22年7月に楽天証券の持ち株会社、楽天証券HDの新規上場を東京証券取引所に申請していたが、競合するSBI証券が日本株の売買手数料をゼロにすると8月に決定し、楽天証券も同月に手数料をゼロにすると決定。売買手数料収入が減るため上場が難しくなった。楽天証券HD上場の目的は前述の社債償還のためだったが、楽天Gは上場の代わりに楽天証券株を、みずほ証券に売却する方針に転換。楽天Gは楽天証券株の約3割を、みずほ証券に売却し、楽天Gの楽天証券への出資比率は80%から51%に下がる。

楽天Gが携帯電話事業にこだわる理由

 楽天Gはこれまで携帯電話事業の設備投資に1兆円以上を投下し、その資金の大半を社債発行で賄ってきたが、24年から2年間に8000億円の社債償還がある。そのため、楽天銀行の上場(4月)や公募増資、楽天証券の株式売却などを進めている。楽天Gの三木谷浩史会長兼社長は会見で社債償還について「銀行にコミットメントをもらっているので、まったく問題はない」とし、「楽天グループの金融サービスは統合すれば5兆円の価値があると考えている。5000億~6000億円の借金は一瞬で返せる」と強気の姿勢を見せた。

「楽天モバイルの契約回線数はサービス開始から3年で約500万、25年に通期で黒字化させるということは、残りあと1~2年で契約回線数を採算ラインの800万以上に伸ばすということになるが、かなりハードルは高い。楽天モバイルは当初、23年中に単月黒字化するとしていたが、その目標値は24年中に後ろ倒しされていることから、収益化計画は想定通りに進んでいない。

 三木谷会長は銀行とのコミットメントがあるから大丈夫だと言っているが、銀行からの資金調達がスムーズにいっているのであれば、楽天銀行や楽天証券、楽天カードの上場や外部からの出資受け入れを急ぐ必要はないはず。グループの収益源である金融事業会社を手放してでもキャッシュを集める必要に迫られているのではないかということで、資金繰り悪化への警戒が広まっている」(金融業界関係者)

 そこまでして楽天Gが携帯電話事業にこだわる理由は何か。

「会見で三木谷会長は、楽天モバイルの契約者は楽天市場での年あたりの購入額が約60%、楽天トラベルは約100%上昇すると強調していることからもわかるとおり、楽天Gが展開する各種サービスの利用者囲い込みと利用機会のアップが狙いだろう。11月に発表されたSPU(スーパーポイントアッププログラム)の改定では、楽天モバイル契約者がポイント還元面でさまざまな優遇を受けるかたちになっているが、これもその一環だ。この戦略で要になってくるのが楽天ポイントなどの金融サービスだが、携帯事業の資金獲得のために金融事業会社を上場などさせることによって、それらを楽天グループとして自由かつ機敏にハンドリングできなくなってしまえば本末転倒だ。そこに楽天Gの経営の危うさを感じる」(別の金融業界関係者)

 当サイトは8月13日付記事『楽天G、資金繰り行き詰まり懸念…銀行が追加融資に難色か、楽天カード上場は最悪』で楽天Gの経営について掘り下げていたが、以下に改めて再掲載する。

――以下、再掲載――

 楽天グループは10日、2023年1~6月期の連結決算(国際会計基準)を発表。営業損益は1250億円の赤字(前年同期は1987億円の赤字)、最終損益は1399億円の赤字(同1778億円の赤字)となり、携帯電話事業の巨額の赤字(1850億円)がEC事業や金融事業などの利益を食いつぶす構図が改めて鮮明に。楽天Gは携帯事業の基地局整備などの設備投資のために発行した大量の社債の償還を23年以降に控えており、その額は25年までに約8000億円。市場では資金繰り行き詰まりへの懸念も浮上するなど、経営の行方が注視されている。楽天Gの三木谷浩史会長兼社長は同日の会見で「財務的にはもう間もなく、グループ全体で黒字化というのも復活します」「楽天Gの収益構造の向上もすごいスピードで始まっています」と語り強気の姿勢をみせているが、三木谷社長がいうように同社が近いうちに黒字に転じる可能性はあるのか。もしくは、単独での存続が困難になるというシナリオは考えられるのか。専門家に聞いた。

 楽天Gの目下の経営課題は、なんといっても携帯事業だ。20年に子会社の楽天モバイルを通じて携帯電話事業のサービスを開始。どれだけ使っても月額で最大で税込み3278円(楽天回線エリアのみ/通話料等別)、さらに月間データ利用量が1GB以下なら基本料無料というプランを掲げ、翌21年には500万回線を突破したものの、昨年には1GB以下の0円プランを終了した影響で契約数が減少した。

 そうした状況に楽天モバイルは手をこまねいていたわけではない。従来の「Rakuten UN-LIMIT VII」は、月間データ利用量3GBまでは月額1078円、同3GB~20GBまでは月額2178円、データ使い放題は月額3278円であり、専用アプリ「Rakuten Link」を使用すれば音声通話とSMSは無料。ただ、データ利用量については、KDDIのパートナー回線によるauローミングサービス利用時の高速通信は月間5GBに制限されており、制限を超えると通信速度が1Mbpsに制限されていた。そこで6月1日からは「最強プラン」の提供を開始し、現行の料金体系を維持しつつ、auローミングの制限を撤廃。

 新プランの影響もあってか、今年6月時点の楽天モバイル(MNOの個人+法人)の回線数は、前四半期から24万増の481万と右肩上がりのトレンドを維持しており、会見で三木谷社長は「近いうちに500万回線を実現できる」と自信を示している。