最近、全国各地で「ご当地マス」の生産が盛んになっていますが、長野県にいるご当地マスは他県のものとは一線を画す存在です。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
各地で養殖されるユニークなマス
いまわが国に空前の「マスブーム」が来ていることをご存じでしょうか。全国各地で「ご当地マス」と呼べるようなユニークなマス品種が開発され、養殖されています。
比較的有名なものに、栃木県の「ヤシオマス」があります。これは魚種的には一般的にも有名なニジマスなのですが、ただのニジマスではなく遺伝子操作で「三倍体」にしたマスです。三倍体の個体は繁殖を行わないため生殖にエネルギーをとられることがなく、大きく脂乗りよく成長します。
また各地で「掛け合わせ」によって作られたマスが養殖されています。ブラウントラウト×ニジマスの「信州サーモン(長野県)」やキングサーモン×ニジマスの「富士の介(山梨県)」などがそれです。
マスは生食しても美味しいため、内陸県の「刺身用魚」として需要があり、食味の良いもの、養殖しやすいものなどがどんどん開発されていっているのです。
長野のマスは特にユニーク
さて、そのような「ご当地マス」の中でもひときわユニークなものが長野県で養殖されています。それは「シナノユキマス」。
長野県の山上湖などに放流され、釣りの対象として人気のこの魚、一見すると全くマスに見えません。大きくてはがれやすい鱗に全身が覆われ、口は小さく、その体形はまるでコノシロやイワシのような「ニシン科」によく似ています。
釣りの際にも、マス釣りで最も一般的な「ルアー釣り」で狙われることはまずなく、イワシと同様「アミエビ」の寄せ餌が用いられています。
その正体は「コレゴヌス」
このようにどう見てもマスに見えないシナノユキマスですが、分類学上は礫意図したマス(サケ科)です。しかしほかのマスがサケ属やタイセイヨウサケ属に含まれるのに対し、シナノユキマスは「コレゴヌス属」というグループに分類されます。
コレゴヌス属は日本には生息していないグループで、シナノユキマスはチェコスロバキアから移入されました。長野県独自のマス品種を養殖しようとする試みにより導入され、やがて人工ふ化に生息し、経済種として生産されるようになりました。
ほかのマス類と比べると身の色が淡く、鮮度落ちが早いという欠点がありますが、脂のりがよく美味です。地元では刺身や塩焼きなどで消費されており、元祖「ご当地マス」として存在感を発揮しています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>