金融業界の長い歴史のなかで確立されたルール
クラウドファンディングというサービスが存在したがゆえに、科学博物館が資金を調達することができたというのは紛れもない事実だ。その一方、「国立の文化・研究施設の資金難に乗じてクラファン運営会社が1億円を中抜きしている」「純粋な寄付であれば、支援者が提供した資金のほぼ満額を科学博物館が運営に充当できる」といった声もあがっている。このようなサービスは、ビジネスモデルとしてどのように評価すべきか。経営戦略コンサルタントで百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏はいう。
「善意で寄付した人たちから見れば、寄付した金額のすべてが寄付する相手に渡るわけではないという制度に不満を感じるわけです。この問題をどう考えたらいいのでしょうか。
実は金融業界では似たような話は掃いて捨てるほどあります。私自身が体験したこんな話があります。ある有望なベンチャー企業を見つけて、仲間と一緒に5000万円ほどの資金を投資することになりました。シリコンバレーのアメリカ企業で、3億円ほどの資金調達を行う際にエンジェル投資家として参加できたのです。投資を行った後で、そのベンチャーの本社を訪れる機会があったのですが、話を訊くと私たちのグループが投資をした5000万円のうち、その企業に渡ったお金は4000万円弱だったそうです。途中に入っていた金融機関、エスクロー会社、弁護士事務所などに約22%、つまり1000万円強のお金が渡っていたのです。アメリカは日本と違ってベンチャー投資の仕組みが確立されているといわれていますが、そういった仕組みが出来上がってみると、間に入る会社に相応の資金が抜かれてしまう仕組みにもなっています。
実はこの投資の時、アメリカに送金するために5000万円を米ドルに換える必要があったのですが、メガバンクに支払った為替手数料も100万円に上りました。間に入るだけで、なぜ為替手数料がこんなに高いのか、疑問を感じたものでした。
こういった問題がなぜ起きるかというと、金融業界では『取引の何%を手数料とする』というルールが長い歴史のなかで確立していることが根本原因です。そのせいで取引金額が大きくなると『なんでこんなに高いのか?』と驚くような手数料を取られることになるのです。改善するとなれば、この業界慣行そのものに切り込む必要があります。
一方でこういった金融サービスが存在しなければ、国立科学博物館の危機を救おうという人たちから9億円が集まることもなかったわけです。クラウドファンディングのプラットフォームを運営する会社からしてみれば、これまで資金を調達できなかった企業や団体、個人に対して、新たに資金調達の手段を生み出すという価値を提供して、調達が成功すれば自分たちも成功する制度を設計したわけです。それが成功したとたん、利用者から非難されてしまうというのはある意味で、クラウドファンディングという新ビジネスを切り開いたベンチャー企業にとっても理不尽な出来事なのではないでしょうか」
(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)
提供元・Business Journal
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