日本が迎えている高齢化社会。祖父母や両親に介護が必要な年齢を迎え、「家族の介護費用」が気になっている読者の方もいるのではないだろうか。

介護を考える上で、自宅で介護を行うか、それとも老人ホームなどの施設で利用するかは悩みどころだ。介護状態に合わせて両者を併用するケースもある。選択によって介護を受ける被介護者の負担も、家族も負担も大きく異なる。そのなかで最も家計への影響が大きいのが、費用負担の違いだ。費用面から在宅介護と介護施設のどちらが負担のかかるのかを考えてみる。

1. 在宅介護と老人ホームの費用の違い

在宅介護と老人ホームの費用は、要介護度(介護サービスの必要度、数字が大きい方が必要度が大きくなる)の違いによって異なる。介護サービスの必要度によって判断されるため、病気の重さと要介護度の高さとが必ずしも一致しない場合もある(参照 厚生労働省 :要介護認定はどのように行われるか )。以下では、在宅介護と介護施設の大まかな費用の違い、介護度別の主な介護内容を見ていこう。

【要介護度 / 在宅介護 / 介護施設 / 主な介護の内容】
要介護1 / 約1万7000円 / 約1万6500円
ーー入浴介護つきデイサービス6時間を平日5日間利用。身体介護週2で利用など。
要介護2 / 約1万9000円 / 約1万9500円
ーーデイサービスを週6で利用。車イスレンタルなど
要介護3 / 約2万1000円 / 約2万7000円
ーーデイサービス6時間を週2。身体介護30分を週8回など
要介護4 / 約2万3000円 / 約3万円
ーーデイサービス6時間を週1。身体介護30分の週12回利用など
要介護5 / 約2万5000円 / 約3万6000円
ーー身体介護30分を週5回、1時間を週10回など

上記を見ると、要介護度の低いうちは在宅介護も介護施設も大きな差異がないものの、介護度が高くなってくると様々な生活補助が必要となり、介護施設の暮らしは経済的な負担が重くなることが読み取れる。また、ここには計上されない「生活費」にも注意が必要だ。

在宅介護の場合、食費や家賃は日常生活と同じだ。既に自宅を所有している場合は、一時的なリフォーム費用はかかるが自宅を「介護用」に整備することもできる。一方で介護施設は生活拠点を別に工面しなければならず、経済的な負担は重く感じる。

それでも介護施設が増えているのは、それだけ「在宅介護の負担が重い」という点だ。在宅介護は家族に負担のかかる場合が多いが、その身体的負担はとても強いものだ。「たくさんのお金が払っても介護施設にお願いしたい」と考える家族も決して少なくはない。「介護疲れ」という言葉が社会で広く認知されるほど、この問題は深いものだ。

ただ、これらの介護のうち、被介護者が支払うのは1割と定められている。40歳を超えると支払う介護保険の「現物給付」と呼ばれるものだ。要介護度に対して支給限度額と自己負担限度額が定められており、この負担額のなかで受ける介護サービスの内容(ケアプラン)を設定していくことになる。公的介護の保証は介護の前提である要支援段階にも「予防給付」という名称で設定されている。以下では、要介護別の支給限度額と自己負担限度額をみてみよう。

【要介護状態 / 支給限度額(単位) / 自己負担限度額(円)】
要支援1 / 4万9700円 / 約4970円
要支援2 / 10万4000円 / 約1万400円
要介護1 / 16万5800円 / 約1万6580円
要介護2 / 19万4800円 / 約1万9480円
要介護3 / 26万7500円 / 約2万6750円
要介護4 / 30万6000円 / 約3万600円
要介護5 / 35万8300円 / 約3万5830円

また、この額を超えても「高介護サービス費」という救済制度がある。所得によっては大きな負担となる1割の自己負担に対して、更に軽い自己負担の上限を定めているものだ。

2. 場合によっては老人ホームの方が費用を抑えられることも

ただ、この比較には「注意点」がある。月々の費用で見ると在宅介護の方が安いことがわかるが、被介護者は段階的に要介護度が重くなっていくもの。たとえ介護状態に合わせて一度自宅をリフォームしたとしても、更なる要介護認定に合わせて更にリフォームが必要になることもある。その費用負担はとても大きなものだ。このほかにも離れて暮らしていた家族が近くに越してくる、また仕事を辞めなければいけない、という事態も多いというのが現実。経済的な負担も、お金以外の負担も、とても大きなものだ。

一方で老人ホームは「転院」という制度がある。介護状態が軽くなると、その分転院をして介護費用の負担を和らげることができる。介護施設から一般の病院に転院するというケースも。その分費用負担は軽くなるが、一方で1度リフォームした自宅はそうはいかない。

介護状態は変わらず長年維持される場合もある。すると費用負担としては在宅介護の方が抑えられるということになり、その予測はとても難しい。現在の状態で考えたときの経済的負担を明らかにして、被介護者と介護者にとって(経済的負担以外も踏まえて)どちらがいいのか、子世代も一緒になって考えることが必要といえるだろう。

文・工藤 崇(FP-MYS代表取締役社長兼CEO)/ZUU online

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