南極基地ルンバ「アーニー」と「バート」の引き裂かれた友情

アーニーと名付けられたアムンゼン・スコット基地のルンバ
Credit:BRR

南極基地で働くルンバのうち1台は、「アーニー」と名付けられています。

彼には同じフロアを掃除するパートナーのルンバ「バート」がおり、スタッフたちから「ソウルメイト」として扱われていました。

(バートとアーニーという名前は、アメリカのテレビ教育番組「セサミストリート」に登場するキャラクターおよびコンビ名です)

しかし2019年、アーニーが別のフロアを掃除するようになると、「彼らはすれ違いになり、階段という障壁によって永遠に引き離された」というジョークがスタッフたちの間に広がりました。

この言葉は、南極点望遠鏡(SPT)チームの1人であるエイミー・ロウィッツ氏のものです。

彼女によると、「毎年、夏に新しいグループがやってくるときに、私はこのジョークを語りました」とのこと。

ちなみにロウィッツ氏によると、現在アーニーとバートは同じフロアで働いており、「彼らの願いは叶った」ようです。

しかし、アーニーの喜びは長続きしませんでした。

2020年1月、アーニーが突如姿を消し、行方不明となったのです。

「自宅を掃除するルンバが、ベッドの下に入ったまま出てこない」など、一時的な行方不明はたまにあるものですが、南極基地内でも同様のことが生じたようです。

そして、ルンバが大好きなスタッフたちにとって、アーニーの行方不明は「黙ってはいられないビッグイベント」となりました。

南極基地での「ルンバ失踪事件」、そしてスタッフから要求される「身代金」

「アーニー失踪事件」は、スタッフたちの間で瞬く間に広がりました。

南極点望遠鏡チームのX(当時Twitter)には、「最愛のアーニーが行方不明です」という張り紙の画像が投稿されるほどでした。

その投稿の中では、「パートナーのバートは取り乱しており、人々はアーニーを探すためにビラをまいたり、小さな記念碑を用意したりしている」とも述べられています。

そしてこの事件は、(悪ノリするスタッフたちによって)さらなる展開を迎えます。

「クッキーモンスター」と名乗る2人組とアーニーの写真(おもちゃの銃を突きつける写真、アーニーを階段から突き落とそうとする写真)が載せられた張り紙が、基地調理室の外に張られたのです。

そこには、「アーニーが生きている姿をもう一度見たければ、チョコチップクッキーの入ったトレイを指定の場所に置け。そうすれば無事に返してあげよう」という、身代金の要求も書かれていました。

アーニーは基地のどこかで発見されたのでしょう。しかし愉快な誘拐犯の手に渡ってしまったようです。

スタッフたちはこのことで大いに盛り上がり、中には「誘拐犯によって、既にアーニーは命を落としている」と述べて、そのことを悼む替え歌を作る人もいたようです。

とはいえ最終的に、アーニーはチョコチップクッキーと引き換えに返還され、バートと再会することができました。

ロウィッツ氏によると、このような「悪ノリ」は、基地で働くスタッフたちにとって必要なことなのだとか。

南極の基地では、人々が考える以上にやるべきことがたくさんありますが、変化は稀です。

そのため、スタッフたちは努めて自分たちを楽しませる必要があり、アーニーの失踪事件は、彼らを大いに興奮させるユニークなイベントとなったのです。

アーニーを含む「南極点のルンバ」はこれからもスタッフたちに愛されていき、様々なストーリーを紡いでいくことでしょう。

参考文献
Roombas at the End of the World Robotic romance, ransoms, and raccoon suits at the South Pole