厚生労働省の統計結果によると、昨年(2015年)離婚した夫婦は「22万5000組」である。2分20秒に1組が離婚している計算になる。ひと昔前は、世界の中でも日本は、比較的離婚の少ない国だった。
しかし、1年間に結婚する夫婦が63万5000組であることを考えると、日本でも離婚は珍しいことではなくなった。子どものいる夫婦が離婚する際に、頭の痛い問題が「親権」と「養育費」である。今回は「養育費」に関して注意すべきことを説明する。
養育費に時効はあるか?
離婚の話し合いでは、夫婦が険悪になり、冷静に「養育費」、「慰謝料」、「財産分与」を話し合う状況ではない。子どもがいる場合、「親権者」を決めないと「離婚届」を役所が受理してくれないから、どちらが子どもの「親権」を持つか話し合っても「養育費はいくら?」というような話し合いには、なかなかならない。とにかく早く解決したい一心で、金銭の話し合いを封印し、離婚する夫婦が少なくないのである。
しかし離婚後しばらくして、「子どもの養育費についてきめておくべきだった」と後悔することになる。しかし、元配偶者には連絡を取りづらいまま数年過ぎ、結局「養育費の請求には時効があって、後で請求ができない」と思い込み、そのままになっている人も結構いる。「養育費の請求」に時効があると誤解しているのである。
この誤解は、「財産分与・慰謝料の時効」と混同されているのが原因ではないかと思う。確かに、元配偶者に対する「財産分与請求権の時効」は離婚後2年、「慰謝料の請求権の時効」は3年と法律で決まっている。しかし、「養育費の請求権」には時効がない。「養育費」はあくまでも子どもが請求できる権利であり、子どもに代わって親が元配偶者に請求するという考えだからである。
ただ一度決められた「養育費」を相手方が払わなくなった場合、そのまま請求しないと、5年で時効になるので、この点は注意してほしい。
親権と養育費の関係
子どもがいる夫婦が離婚する際には、「親権者」を決めなければならないと説明したが、それでは「親権」とは何だろうか?
「親権」には、子どもの世話をして、教育やしつけをして一人前の大人に育てていったり、子どもの法定代理人として契約を結んだりする「身上監護」の権利と、子ども名義の財産を管理する「財産管理」の権利の2つがある。
ただし「教育やしつけをして一人前の大人に育てる(養育監護)の権利」は、親として当然の権利であり、たとえ「親権者」でなくても発生するものである。従って、仮に親権者である母親から父親に「養育費」の請求があっても、父親は自分が「親権者」でないことを理由にして、拒否することはできない。つまり、親子関係が続いている以上、養育に係る費用は分担するというのが、「養育費」の考え方である。
養育費はどのように決めるものなのか?
「養育費」は、一般的に離婚する際に、毎月の金額、支払い方法等を夫婦の話し合いで決める。もし決まらなければ、家庭裁判所の調停を利用して、決める方法もある。
養育費の金額は、法律的に「○○円以上」というように、明確に決められているわけではない。養育費を支払う側の年収、親権者の年収、子どもの年齢・人数等を総合的に考えて決めることになる。ただ、「養育費」をめぐる調停等で、裁判所が出した「判例」を基に作成した「養育費算出表」があるから、この資料を参考にして決めていくことになる。
親権者としては、少しでも多くの金額を負担してもらいたいところだが、支払う側にも今後の生活があり、無理な金額を決めても途中で支払ってもらえなければ意味がないから、結局現実的な金額に落ち着くことになる。
確実に支払ってもらうためには?
離婚した後に、元妻が元夫から「養育費」を支払ってもらうケースは、約20%という調査結果が出ている。しかしその後、子どもが成人するまでに支払い続けるケースはかなり低くなる。
離婚の際に「養育費」の支払いについて話し合い、その結果を「離婚協議書」に記載したとしても、基本的に強制力はない。強制的に支払ってもらうためには、一度裁判を起こし、勝訴、和解した上で、「債務名義」を取る必要がある。もちろん時間もかかるし、費用もかかる。
そうならないために、離婚の際に決まった「養育費」について、「公正証書」にしておきたい。両者で話し合った内容を書面にして公証役場に持って行き、公証人にその内容を確認してもらって、公的な証書にするのである。こうすることで、もし「養育費」の支払いが滞っても、「給料差し押さえ」等の強制執行ができる。
また家庭裁判所が作成した「調停調書」、地裁が作成する「判決書」、「和解調書」にも強制力がある。
「養育費」の件で相談に来る方に共通しているのは、「とにかく早く離婚したかったので、養育費の話はほとんどしませんでした」というものである。確かに、早く解決したい一心で、金銭的な話を持ち出しにくいという気持ちはわからないではない。
しかし、「養育費」は子どもを養育していくために、親が共同で負担するものだから、遠慮せず請求してほしい。
文・井上通夫(行政書士著者名)/ZUU online
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