社会主義理論学会慶應義塾大学大学院経済学研究科名誉教授大西広研究会主催の2023年8月29日開催「2023年日中社会主義フォーラム」(於慶應義塾大学三田キャンパス南校舎473教室)に社会主義理論学会会員の筆者も参加したが、充実した議論が展開され有意義であった。

同フォーラムにおける9名の「現代中国」に関する中国側研究者の研究報告に関する筆者の全般的問題提起は下記(1)~(20)の通りである。日中の研究者専門家による下記問題提起事項に対する解明及び回答を期待したい。

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(1)利益衡量

筆者は日本で30年間の弁護士実務経験を有する元弁護士で、専門は民事法全般であり、とりわけ契約法と損害賠償法が中心であった。民事訴訟の本質は原告被告間の「利益衡量」に尽きる。民事判決も同じである。行政訴訟になるとこれに「公益」が加味され重要性を持つ。

中国の民事訴訟も行政訴訟も基本的に同様と考えるが、実際はどうなのか?中国の裁判官など法律専門家の認識はどうなのか?

(2)実力主義

日本は大学や官庁や会社も基本的には「年功序列」であるが、中国では若い優秀な人材を抜擢する「実力主義」の印象を受け、これが中国の発展の原動力と思われるが、実際はどうなのか? 中国共産党及び中国政府の認識及び方針はどうなのか?

(3)言論の自由

日本では、若い人は生まれた赤ちゃんの時から自民党政治であるため、自民党の政権担当に特段の不自由も抵抗も感じないと考えられる。そのため若い人に自民党支持が比較的多い。それと同じく、中国でも若い人は生まれた時から中国共産党が政権を担当しているので、「言論の自由」を含め、中国共産党の政治に特段の不自由も抵抗も感じないとも考えられるが、実際はどうなのか? 中国国民及び有識者の認識はどうなのか? その理由は何なのか?

(4)毛沢東の評価

これに関連して、中国共産党及び中国政府は中国を世界第2位の「経済大国」に発展させた実績があるため、中国共産党及び中国政府の政治を評価し、なおさら特段の不自由も抵抗も感じないとも考えられるが、実際はどうなのか?

とりわけ、社会主義革命を指導し成功させ、核武装して中国の安全保障を確立した毛沢東主席や、改革開放し経済発展の基礎を築いた鄧小平総書記は評価され、マルクス・レーニン主義の中国的発展とも考えられるが、これらに対する中国国民及び有識者の実際の認識と評価はどうなのか?その理由は何なのか?

(5)天安門事件

1989年の「天安門事件」について、中国では中学・高校の教科書に書かれているのか書かれていないのか?書かれているとすればどのように書かれているのか?「天安門事件」に対する中国国民及び有識者の実際の認識と評価はどうなのか?その理由は何なのか?

(6)労働者の働く目的

共産主義中国では、労働者は国家のために働くのか? 中国共産党及び中国政府のために働くのか? 自分のために働くのか? 労働者の意識と実態はどうなのか? 労働組合と中国共産党及び中国政府との関係はどうなのか? 労働組合に中国共産党及び中国政府からの「独立」はあるのかないのか? 実態はどうなのか? その理由は何なのか? 労働組合の役員は全員または殆どが中国共産党員なのかどうか? その場合、中国共産党からの「独立」はあり得るのか? 「独立」の必要性の有無をどのように考えているのか?

(7)剰余労働

マルクス経済学の「剰余労働」(剰余価値)は中国でも労働者個人には分配されず、国有国営企業すなわち国家が取得するはずであるが、実際はどうなのか? 中国でも「必要労働」部分のみが労働者に分配されると考えられるが、実際はどうなのか? 拡大再生産と経済発展のためには、「資本」蓄積が必要不可欠であり、「剰余労働」(剰余価値)を労働者に分配することはできないと考えるが実際はどうなのか? この問題に関する中国共産党及び中国政府の認識と方針はどうなのか?

中国国民及び経済学者を含む有識者の認識はどうなのか? その理由は何なのか? 国有国営企業(国家)による「剰余労働」の取得と私企業による「剰余労働」の搾取はどこがどう違うのか? その理由は何なのか?

共産主義中国で不労所得である株式譲渡益や株式配当金の取得がなぜ許されているのか? いつまで許されるのか? 中国共産党及び中国政府はなぜ許しているのか? その理由は何なのか? また、不労所得である不動産譲渡益や不動産賃貸収入を中国共産党及び中国政府はなぜ許しているのか? いつまで許されるのか?その理由は何なのか?

(8)所得格差

中国における富裕層の存在と所得格差の問題を中国国民はどのように認識しているのか? 肯定しているのか? 否定しているのか? 中国共産党及び中国政府はどのように考えているのか? 解決策はあるのか?

所得格差は平等を理念とする共産主義と矛盾すると考えられるが、経済発展のための「必要悪」との認識なのか? 中国国民及び有識者の認識はどうなのか?

(9)共産党独裁

中国共産党は日本の自由民主党と同じく、国益重視の広範な組織的「国民政党」と考えられ、その組織は極めて強固であり強靭である。このような中国共産党に対し、中国国民及び有識者はどのような認識と評価なのか? 中国国民及び有識者は「共産党一党独裁」は当然と考えているのか? 異論はないのか? 「共産党一党独裁」に対し中国国民及び有識者は賛成なのか反対なのか? その理由は何なのか?

(10)若者の失業率

中国の若者の失業率20パーセント強は日本の若者の10倍の高さであるが、なぜなのか? これは中国の不動産不況、経済成長率低下、経済停滞が最大の原因と考えられるが、中国共産党はどのように認識し抜本的解決策はあるのか? 中国の経済専門家は若者の失業率悪化につき、どのような解決策を考えているのか?

(11)不動産不況

中国大手不動産企業の米国での破産申請や不動産価格の低下など、中国の不動産不況は深刻と報道されているが、いわゆる不動産バブル崩壊による「債務超過」「バランスシート不況」を中国共産党及び中国政府はどのように解決するのか? 不動産企業の本格的な整理統合再生による抜本的体質改善が不可欠と考えられるが、中国の経済専門家は解決策をどのように考えているのか?