「ユダヤ人のトラウマが再び蘇った」(Judisches Trauma wieder erwacht)という見出してオーストリア国営放送(ORF)のヴェブサイドは2日、大きく報道していた。同国では1日未明、ウィーンにあるユダヤ人墓地の関連施設が何者かに放火され、墓地の外壁にはナチス・ドイツのシンボルだったハーケンクロイツ(鍵十字)と「ヒトラー」という文字が書かれていた、という出来事が報じられたばかりだ。

ヘロデ王時代の神殿の壁「嘆きの壁」 Wikipediaより

パレスチナのガザ地区を2007年から実効支配しているイスラム過激テロ組織「ハマス」が10月7日、イスラエルとの境界網を破り、近くで開催されていた音楽祭を襲撃し、キブツ(集団農園)に侵攻して多数のユダヤ人を虐殺したテロ事件以来、多くのユダヤ人は再びトラウマに襲われているという。

「世界ユダヤ人会議執行評議会」のビニ・グットマン氏は、「ハマスがユダヤ人を襲撃した奇襲テロの10月7日はホロコースト以来最大のポグロムが起きた日だ」と述べている。ハマスの大規模なテロ攻撃は、多くの人々に心理的負担を与えているが、特にユダヤ人は、メディアやソーシャルネットワークを通じて流される画像や動画に苦しんでいる。ホロコーストからヨムキプール戦争(第4次中東戦争)に至るまで、過去のトラウマが再び呼び覚まされるからだ。

具体的には、国民の安全を守ってくれると信じてきた国家(イスラエル)が安全ではなかったこと、ハマスはイスラエルという国家を狙っているのではなく、ユダヤ人を襲撃対象としているという事実に強い衝撃を受けているのだ。オーストリアのラビの1人は、「多くのユダヤ人にとって、10月7日はパラダイムシフトをもたらしている」と語っている。

1973年のヨムキプール戦争(Jom-Kippur-Krieg)を体験したユダヤ人によると、当時の衝撃は現在ほど深刻ではなかったという。当時も諜報機関は機能不全に陥ったが、民間人はほぼ犠牲を免れた。当時は「敵は外からやって来て外に留まっていたが、今回は敵は庭に入り込み、台所にまで侵入してきた」のだ。そして今回の犠牲者の大半は民間人だったのだ。