メスは「他の女子」に選ばれしオスを選ぶ傾向がある
この研究で用いられた数学モデルは、新たに提唱された「推測される魅力(Inferred Attractiveness)仮説」に基づいて作られたものです。
「推測される魅力仮説」とは、メスが他のメスの交尾相手選びを観察し、その情報に基づいて自分自身の交尾相手を選ぶという仮説です。具体的には、以下のようなプロセスが含まれます。
- 若いメスは、経験豊富なメスがどのオスを選ぶかを観察し、「オスの魅力」についての一般的な見解を学ぶ
- 若いメスは、「選ばれしオス」と「選ばれなかったオス」を比較し、どの特徴や特性が選ばれしオスの際立った魅力であるかを学習する
- 若いメスは、その後の交尾選択で、学習した特徴・特性に最も合致する相手を選ぶ
例えば、「経験豊富なメスが赤い羽のオスと一緒にいるのを見た若いメスは、赤い羽を持つオスを交尾相手に選ぶ可能性が高くなる」というのがこの仮説です。
ただし、このプロセスが完璧に機能した場合の問題点は、すべてのメスが赤い羽のオスを選んだ場合、すべての個体の羽が赤色に近くなり、色の多様性が失われる可能性があることです。
これでは、メスの好みが時間とともに変わる現象を説明できません。多様性がなければ、メスは好みを移ろわせることができなくなるからです。
そこで研究者らは、この問題に対処するために、現実世界で起こり得る要素をモデルに追加しました。それは「若いメスが経験豊富なメスの選択理由を間違って解釈する」という事象です。
たとえば上の図では、経験豊富なメスは「赤い羽」に魅力に感じてオスを選びましたが、観察する若いメスは「長い尾」が魅力的だと学習しています。
研究チームは、数学モデルに「若いメスが間違いを犯す可能性」の考慮をくわえ、シミュレーションを行いました。
すると、現実世界と同じように、メスの好みが時とともに変わることが確認できたのです。
さて、これは「なぜ」起こったのでしょう?
「モテ男」の特徴が一般化されると「モテなくなる」
メスが他のメスから学び、同じ特徴(例:赤い羽)を持つオスを選ぶと、その特徴は集団内で広まります。その結果、他の特徴(例:青い羽)は減少していく傾向があります。
しかし、メスが珍しい特徴(例:青い羽)を持つオスを選びはじめると、他のメスもその行動を真似し始めます。この影響は大きく、シミュレーションでは、マイナーな特徴が短期間でメジャーな特徴を上回ることも確認されています。
さらに時間軸を長くとった観察では、マイナーだった特徴が増えすぎて「一般化」することで、メスにとっての魅力が減ることが確認されています。
メスは他の女子と同じタイプを好きになることで「モテ男タイプ」を形成しますが、魅力に思えていた特徴が珍しくなくなると、他のタイプに心が移ってしまうのです。
ゆえに一つの特徴が集団内で支配的になることはないようです。
言い方を変えると、「メスの移り気のためにオスは多様であり続け、多様であることによってメスの新たな嗜好を満足させている」と言えます。
本研究は、あくまでも数学モデルを用いたシミュレーションに基くものですから、現実世界がどうであるかは、実際に長期に観察しなければわかりません。
ただ言えることは、もしあなたが「現代のモテ男タイプ」に合致していなかったとしても、悲観する必要はないということです。
数世代後には、あなたの「珍しい」特徴や特性が、評価される時代が来るかもしれませんから。
あなたが悪いのではなく、ただ時代に合っていなかったというだけなのかもしれないのです。
参考文献
New study by FSU biologist challenges old ideas about choosing mates – Florida State University News
元論文
Inferred Attractiveness: A generalized mechanism for sexual selection that can maintain variation in traits and preferences over time | PLOS Biology