エルダン大使らイスラエル大使館スタッフたちが黄色の「ユダヤの星」を胸に付けたというニュースが流れると、エルサレムにあるホロコースト犠牲者を追悼するイスラエル国立記念館「ヤド・ヴァシェム」のダニ・ダヤン館長は、X(旧ツイッター)で「ユダヤの星」を着けたエルダン大使の言動を批判している。
曰く、「この行為はホロコーストの犠牲者とイスラエルにとって恥ずべきことだ。黄色のバッジは、ユダヤ人の無力さとユダヤ人が他人の言いなりであることを象徴している。今日、私たちは独立国家であり、強力な軍隊を持っている。私たちは運命の主人だ。今日、私たちは青と白の国旗を持っている。黄色いバッジではない」と強調している。非常に明確で啓蒙的な発言だ。
繰り返すが、国家社会主義時代に全てのユダヤ人が身に着けなければならなかった黄色の「ユダヤの星」は、ナチスによるユダヤ人の排除、迫害、殺害を象徴している。その「ユダヤの星」を現在、強制されてもいないのに自ら身に着ける行為は少々自虐的な行動だ。それをダヤン館長は、「ユダヤ人の無力さとユダヤ人が他人の言いなりであることを自ら認めるような行為だ」と説明し、「ユダヤ人の恥であり、ホロコースト犠牲者にとっても恥だ」という厳しい表現となったわけだ。同館長はまた、「ハマスの奇襲テロ」と「ホロコースト」を同列視することは出来ない、と釘を刺している。
ユダヤ人はナチス・ドイツ政権下で600万人が虐殺された。イスラエルは戦後、事ある度にホロコーストを持ち出すこともあって、「イスラエルはホロコーストを利用している」という批判の声もあった。口の悪い反イスラエル主義者は「ユダヤ人のホロコースト・インダストリー」と呼んでいたほどだ。
それに対し、ダヤン館長はイスラエル人の犠牲者メンタリティを払拭し、「私たちは運命の主人だ」と表明しているのだ。画期的な発言だ。ユダヤ人自らが過去のトラウマを克服し、民族の誇りを高らかに宣言しているのだ。
いずれにしても、ダヤン館長の発言を引き出した、という点で、イスラエル大使の「ユダヤの星」騒動にも意味があったというべきかもしれない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
【関連記事】
・「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
・大人の発達障害検査をしに行った時の話
・反原発国はオーストリアに続け?
・SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
・強迫的に縁起をかついではいませんか?