時計デザインを手掛けるプロダクトデザイナーはこれまでも多くいるが、自らが“ウオッチビルダー”として製造まで手掛けてしまう例は、世界的に見てもそれほど多くない。
そんな世界的にも希有なブランドのひとつ“大塚ローテック”の片山次朗氏にインタビューを行った。
「卓上旋盤を手に入れたことをきっかけに
腕時計製作を始めました」
その名が示すように東京・大塚に工房を構える大塚ローテックは、カーデザイナーでもある片山次朗氏が立ち上げたマイクロウオッチブランドだ。メカニカルなデザインのレトログラードやジャンピングアワーを得意としており、その人気に対して製造本数はわずか年間数十本。そのため販売時には常に争奪戦となる。
「父が卸業に就いていた関係で、幼いころから家には古い時計がいっぱいありました。たまに勝手に借りて使っていましたけど、時計にすごく興味があったわけではないですね。ただ、クルマやバイクなどの機械いじりは好きだったんです。時計を作るようになったきっかけは、15年くらい前にオークションで旋盤を手に入れたことかな。最初は意味もなく金属の塊を削って遊んでいたのですが、そのうちに時計ケース作れるかもと思い立って、実際に始めてみました」
時計製造について学校に通ったり、師匠の下で学んだ経験はない。ほとんどが動画や書籍を見ての独学だという。
「最初は削りやすい真鍮(しんちゅう)を使ってケースを作っていました。そこにほかの時計から取ったムーヴメントを組み込んで、個人的に使っていたのが4号まで。徐々に技術も上がってきて、ムーヴメント自体にも手を加えるようになりました。いまは汎用ムーヴメントに自作のモジュールを載せていますが、今後はムーヴメントも一から開発していきたいですね」
もともとクルマに関わってきたこともあり、計器っぽいデザインが好きだという。レトログラードやジャンピングアワーへのこだわりもそこに理由があるのだろう。最新の7.5号はターレット式カメラがモチーフ。過去の作品も5号はオープンリールデッキ、6号は速度メーターや気圧計を題材としており、今後も機能美を感じさせる作品を目指していきたいという。
「私ぐらいのブランド規模ですとパーツ調達もなかなか難しいんです。例えばネジにしても、外注するとロットが数千個単位になってしまい、多すぎて頼めない。そうなると手間は掛かりますが、自分で製作したほうがコストは全然抑えられる。手作業にこだわるのは、もちろん私自身も納得した製品をお客様に届けたいという思いが根底にありますが、実はこうした裏事情もあるんです(笑)」
最新作“7.5号”も製造数が限られるため、抽選販売となる。現在公式サイトで予約を受付中(2023年11月10日まで)のため、気になる人はチェックしてほしい。
トヨタのカローラやアルテッツァなどカーデザインを担当した片山次朗氏が、1998年にプロダクトデザイナーとして独立。その活動中に独学で時計製造を学び、2008年頃から時計作りを開始した。その後、12年に自身の時計ブランド、“大塚ローテック”を創業する。東京の大塚に拠点を置き、様々なモノがもつ雰囲気、フォルム、ディテール、質感からインスピレーションを得た腕時計を展開する
文◎巽 英俊
提供元・Watch LIFE NEWS
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