人生において友達との縁が切れることはよくあっても、家族との縁は生涯にわたって続きます。

これはカラスの世界でも同じなのかもしれません。

英ブリストル大学(University of Bristol)とエクセター大学(University of Exeter)の最新研究で、コクマルガラスは最高の報酬を得るためなら親友との縁を切るが、たとえ報酬が得られなくても家族との縁は切らないことが判明しました。

家族との絆は、友情や報酬より大切なようです。

研究の詳細は、2023年9月11日付で科学雑誌『Nature Communications』に掲載されています。

高い社会性の証拠「絆」を尊ぶコクマルガラス

ニシコクマルガラス
Credit: canva

カラス科(学名 Corvidae)の鳥たちは非常に知能が高く、複雑な社会生活を送っていることで有名です。

彼らは人と同じように道具を作って操作したり、死んだ仲間の葬儀をしたり、たった一人の相手と生涯を共にする一夫一婦制を築いていたりします。

そこで研究チームは今回、大きな群れを作る習性を持つ「ニシコクマルガラス(学名:Corvus monedula)」を対象に、仲間との社会的な関係性が報酬の存在によって変わるかどうかを検証してみました。

映画などで高い報酬を餌に仲間を裏切るよう要求されるシーンを見たことがあると思いますが、仲間との絆を尊ぶ動物たちに対してこのような要求をした場合、どんな反応を見せるのでしょうか?

本研究では、イギリス南西端コーンウォールにある「Cornish Jackdaw Project」で監視されている数百羽の野生のニシコクマルガラスを用いて、そんな疑問を検証する面白い実験ゲームを行ったのです。

「友情」か「ごちそう」か、究極の2択ゲーム

まずチームは、群れに属する個体をAかBいずれかのグループにランダムに振り分けました。

それぞれの個体には、餌箱の鍵となるタグが付けられており、これにはA・Bのグループに対応した2種類が存在しています。

(また各個体は長年の観察により、どのペアが親友同士で、どのペアが家族関係にあるのかが分かっている)

そして次に、2つの餌箱を隣同士で設置しました(下図を参照)。

それぞれの箱には鍵のかかったドアが2つ付いており、一方には普通の餌である「穀物」が、もう一方には大好物である「乾燥ミールワーム」が入っています。

ニシコクマルガラスにとって穀物は平凡な食事、ミールワームはごちそうです。

実験セットのイメージ
Credit: Michael Kings et al., Nature Communications(2023)

実際のゲームでは、鳥が一羽で餌箱の前の台座に立つと(AかB)、チップが反応して平凡な餌である穀物のドアだけが開きます。

他方で、同じグループの鳥と一緒に2つの餌箱の台座に立つと(AAかBB)、ごちそうであるミールワームの扉が開かれます。

しかし以前から付き合いの長い親友同士だからといって、AとBの2羽が来てもごちそうの扉は開かれません。

高い報酬の鍵を開けるには、見ず知らずの相手でも同じグループの個体とペアを作る必要があります。

つまり、同じグループに親友がいない場合、ごちそうを得るには古い友人との縁を切って、新しい友達とペアになければならないのです。

ここで試されたのは「友情」か「報酬」かの究極の2択でした。

「友情は裏切る」が「家族の絆」は尊ぶ

実験結果は非常に興味深いものとなりました。

まずニシコクマルガラスたちは非常に賢く戦略的で、同じグループの鳥とペアで台座に立てば、ごちそうの扉が開くことを学習すると、その相手と新たな友情関係を積極的に築き始めたのです。

その代わり、かつての親友とは縁を切り、疎遠になっていました。

これはニシコクマルガラスにとって、目先のごちそうが友情より大事であることを示しています。

実験の様子
Credit: Michael Kings et al., Nature Communications(2023)

ところが実験を続ける中で、縁の切れない例外が見つかりました。

それが「家族」です。

夫婦・親子・兄弟姉妹においても、別々のグループに振り分けられている限り、一緒に餌場に来てもごちそうの扉は開かれず、平凡な食事の方しか得られません。

しかし、その事実を学習して知っているはずなのに、ニシコクマルガラスたちが家族との縁を切ることはなかったのです。

夫婦・親子・兄弟姉妹はAとBの別グループであっても、変わらず一緒に行動して社会的関係を維持していました。

これは彼らにとって家族との絆は友情やごちそうを上回ることを意味します。

この結果を受けて研究チームは、ニシコクマルガラスにおいて、友情は目先の利益を得るための”短期的な関係”として有利に働き、家族との絆は生涯にわたって価値のある”長期的な関係”として重要である可能性が高いと指摘しました。

もし彼らの心が聞けるなら、「家族と一緒なら質素な食事でも平気です」と答えるかもしれません。

葬儀にネクロフィリア!? 仲間の死にも特別な行動をとる知能が高いカラスの不思議

参考文献
Jackdaws switch friends to gain food – but stick with family
These crow relatives put food over friendship
Jackdaws ditch friends to gain food but stick with family, study finds
元論文
Wild jackdaws can selectively adjust their social associations while preserving valuable long-term relationships