「日曜画家」という言葉がある。休日に趣味として絵を描くアマチュア画家のことだが、奥鎌倉の古美術ギャラリー・Quadrivium Ostium(クアドリヴィウム・オスティウム)にて、世に埋もれた日曜画家のプライベート作品に光を当てるユニークな試みが行われる。
「個人的な居所としてのアート(Art as a space for a personal soul)」と題してシリーズを展開。第1回展覧会として「風景画家・岩﨑恒男『彼方へ』展」を11月30日(木)~12月12日(火)まで開催する。
埋もれた作品を発掘する「個人的な居所としてのアート」
これまで日曜画家の作品は、ほとんどが一般に公開されることも美術館に寄贈されることもなく、作者の死後には処分されたり死蔵されたりするのが普通であった。
そんな故人のアートにフォーカスし、芸術的価値が高いと思われる作品を発掘するというのが今回の試みだ。
社会にとっては新たなアーティストの発見の機会となり、遺族にとっては故人の想いや作家性の再発見の機会をもたらす。
また、展示や販売を想定していない極めて個人的な作品に込められた情熱を通じ、人間本来に由来する「アートとは何か」をあらためて問いかける企画になるという。将来はシリーズを公募制にすることも見込む。
地元である埼玉県東松山を描いた風景画家・岩﨑恒男氏
会場となるQuadrivium Ostiumは、鎌倉市にある古美術品のアートギャラリー。店名はラテン語で「十字路の入り口」を意味し、「様々な時代や場所で作られた物が遥かな道をたどり、ここで受け継がれ次に手渡されていく」との思いが込められている。
「美術館やギャラリーのような空間に住まう」をテーマに設計された自邸の1階スペースを使い、普段はヨーロッパのアンティーク家具や絵画とともに古美術を展示する。期間中は岩﨑恒男氏が生前描いた風景油彩画約60点を展示し、販売も行う。
岩﨑恒男氏(1939年~2012年)は、会社勤めをしながら、地元である埼玉県東松山の草原や河原、地方の古民家などの風景を対象とした油彩画を描き続けた日曜画家だ。
何気ない風景の中にもしっかりと感じられる揺るぎない視線と、繊細で静謐な色調を特徴とする。本人が生涯、個展を開くことを固辞していたといい、作品は近親者しか観たことがなかった。
今回は遺族の厚意により展覧会が実現し、ⅰ草原の風景、ⅱ古民家のある風景、ⅲ旅の風景、ⅳ静物画の4部構成で約60作品を展示する。
12月2日(土)~12月3日(日)、12月9日(土)~12月10日(日)には故人の甥にあたる黒田貴彦氏が「伯父の思い出」と題したトークショーも行う。
岩﨑氏の生前、東松山の自宅を年に一度ほど訪ねていたという黒田氏。酒を酌み交わし、岩﨑氏の愛した音楽やアート、それにまつわるヨーロッパ旅行のことなどを語り合った記憶を持つ。
アートとは本質的には、商業や投機とは対極にある存在なのかもしれない。「伯父にとって絵画創作とは、鑑賞者を必要としない極めて個人的な営みだったように思えます」と黒田氏が語る画業をたどる。
風景画家・岩﨑恒男「彼方へ」展
開催期間:11月30日(木)~12月12日(火)
会場:Quadrivium Ostium
所在地:神奈川県鎌倉市浄明寺5-4-32
営業時間:11:00~17:00
休日:12月6日(水)
予約:不要
入館料:無料
アクセス:鎌倉駅(JR横須賀線、江ノ島電鉄)東口4番バス乗り場より京浜急行バス(鎌倉霊園正門前太刀洗 行/金沢八景駅 行/ハイランド循環)に乗車、「泉水橋」バス停下車 徒歩5分
トークショー「伯父の思い出」
日時:12月2日(土)~12月3日(日)14:00~15:00、12月9日(土)~12月10日(日)14:00~15:00
スピーカー:黒田貴彦氏
(SAYA)