調査委員会にそれを糺された内務省側は、(たとえメールが本物でも)盗聴などの事実はなかったと証言。ただ、よく聞くと、「他の人物を盗聴した際に、会話の相手であったシェーンボルム氏が一緒に盗聴された可能性はある」という玉虫色の返答だった。

一方、今回の主役であるフェーザー氏も、当然、証人として委員会に招かれていたが、病気を理由にそれを2度も欠席し、顰蹙を買った。

というのも、氏はそのとき、州議会選挙を間近に控えたヘッセン州で、元気に選挙運動に励んでいたからだ。なんと、氏はショルツ首相の意を受け、社民党の筆頭候補者として同州の州首相の座を狙っていた。しかもショルツ氏はフェーザー氏に、敗北したら、また国政に戻り、内相の仕事を続けて良いという保証まで与えていたという。

内相としての仕事も疎かになっているフェーザー氏

そうでなくてもフェーザー氏はヘッセン州の選挙にかまけて、国の内相としての仕事が疎かになっているとの批判を浴びていたが、そんな国民の不満の声は、ショルツ氏の耳には一切届いていなかったらしい。ちなみにフェーザー氏は、3度目の調査委員会には出席し、晴れやかな笑顔で、「これで全てはクリアになった」などというコメントを出していたが、実際には、問題は今も何ら決着が付いていない。

10月8日のヘッセン州議会選挙の結果はというと、フェーザー氏の惨敗。CDU(キリスト教民主同盟)が34.6%で第1党、それに、皆が極右政党と貶めているAfD(ドイツのための選択肢)が18.4%。そして、フェーザー氏の社民党は得票率を5ポイント近くも下げ、15.1%で戦後最低となった。

現在はベルリンでもドイツ政府の支持が暴落しているため、氏はそれに足を引っ張られたと言いたいところだろうが、自分も内相としてその失政を担っているのだから、そのせいにもできない。ただ、この満身創痍で内相続投となれば、いくらショルツ氏が約束していたとしても、国民が納得するかどうかが疑問だ。

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だんだん東独に似てきた現代ドイツ

しかし、現政府は、どのみち国民の意を汲む政治など端から無視だ。緑の党のベアボック外相も、昨年9月、EUの外相らがウクライナ援助について協議するためにチェコのプラハで集まっていたとき、公開討論のステージ上で、「ドイツの有権者が何を考えていようが、どうでも良い」と言い切って皆の度肝を抜いた。

“正しい” ことを実行するには有権者を指導するというのが、すでに現ドイツ政府の基本姿勢となっているから、フェーザー氏も “正しい”目標のために、シェーンボルム氏を切ったのかもしれない。

ただ、シェーンボルム氏が納得しなかったのは当然で、すでに、役人保護義務を怠った政府と、フェイクを広めたZDFを相手取って、訴えが出されている。

そうするうちに、さらに奇妙な情報も浮上してきた。実は、ZDFの前述の放送の数週間も前、内務省の役人がベーマーマンにアプローチし、その後、頻繁に電話連絡が繰り返されたという内部情報だ。

野党も、多くの独立系のメディアも、当初から“道化師”ベーマーマンの主張には疑問を呈していたが、ひょっとして、これが内務省の手によって、シェーンボルム放擲のために演出されたのだったとすると、なんだか不気味だ。ただ、ドイツは現在、だんだん東独に似てきているため、然もありなん、なのかもしれない。ドイツはいったいどこへ行くのだろう。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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