日本のエネルギー政策は「温室効果ガス対策が主柱となる。気候変動対策と安全保障の二兎を負うことになった」と、あるOBは解説します。それにしても、「石油」を部課名からなくしてしまと、今回のような中東激動の中で石油を確保することの優先順位は印象として下がってしまいかねない。

資源エネルギー庁の組織図をホームページで調べますと、「省エネルギー・新エネルギー部、資源燃料部、鉱物燃料部」の3部構成です。かつての主柱である「石油部」は存在しない。部名の下の課名にも、かつての「石油計画課」「石油流通課」など「石油」は一字も見当たりません。

では経産省・資源エネルギー庁は石油行政から一切、手を引くかといういうとそうではない。資源燃料部の下部組織の「政策課」の説明として、「石油、天然ガス、石炭に関する政策を行う」とある。同部の任務として「石油製品の販売、需給調整」なども規定されていますから、さすがに脱炭素政策だけに特化することではない。

日本はまだ第1次エネルギーに占める石油の比率は36%、石炭25%,LNG21%で、化石燃料が83%という高率(21年度)です。石油の99%は輸入で、その9割が中東から輸入されています。

長期的には、化石燃料の比率を下げていくにせよ、この83%から一挙に「ゼロカーボン」というのは無理でしょう。まだまだ石油確保、資源外交という役割は大きい。それにもかかわらず、「石油」という部名、課名まで一掃してしまった経産省は拙速だったのでなはいか。

中東激突が始まった直後にNY原油は1バレル87ドル(5%高)に跳ね上がりました。日本の輸入原油の8割はホルムズ海峡を通過しますから、中東情勢によっては、サプライチェーン(供給網)の断絶もあり得ます。

コロナ危機で減った石油需要は復活し、23年に過去最高(IEA)の見通しです。化石燃料によるエネルギー供給(石油、石炭)の優先度が高い国が多い。5月のG7首脳会議も「脱炭素化には複数の道筋がある」とし、脱炭素化一本やりではなく、エネルギー効率の改善が前面にでてきました。

日本というか経産省は、「ゼロカーボン」の国際世論、環境派の主張に押されすぎた。中東危機の再現で今頃、「ちょっと拙速だったかな」と、反省してくれなければ困ります。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年10月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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