ロシア軍が2022年2月24日、ウクライナに侵攻して始まったウクライナ戦争は、世界全土で「安全」が大きな政治テーマとなり、欧州ではドイツが昨年6月、国内総生産(GDP)比1%台だった国防費を2%に引き上げる方針を決めている。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、「核兵器の総数は今後10年間で増加すると予想される」と報告している。安全はタダではないわけだ。
日本の岸田政権は台湾危機、北朝鮮の暴発を警戒し、米国と軍事協力を強化し、2023年度予算の防衛費は前年度比で1.3倍と大幅に増額したと聞く。日本でも「水と安全はもはやタダ」ではなくなってきている。
イスラエルの問題に戻る。周辺をアラブ・イスラム国に取り巻かれているイスラエルは正式には公表していないが、核兵器を持つ核保有国だ。核の抑止力で隣国の軍事的脅威に対抗してきた。だから、宿敵のシリアやイランが核兵器を製造しようとする兆しが見られると、2007年9月、イスラエルはシリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)を爆破した。
イランでも過去、モサドがイランの核開発計画に関わる核物理学者を暗殺してきた。イスラエルの自国の安全を脅かす国や勢力に対する強硬姿勢は時には国際社会の批判にさらされてきたが、同国はその圧力に屈することがなかった。同じことが、ハマスの奇襲テロに対するイスラエルの報復攻撃でもいえるだろう(「イスラエルのイラン核施設爆破計画」2021年10月23日参考)。
安全はイスラエルのアイデンティティに深く刻み込まれている。ハマスのテロ奇襲でイスラエルは自国の「安全神話」を失う一方、隣国のアラブ・イスラム国家では、「イスラエルは無敵ではない」、「イスラエルは怖くない」といった声が聞こえ出しているのだ。
「安全が如何に重要か」をどの国や民族より学んできたイスラエル国民は建国以来初めて、国の土台が揺れ出してきていることを感じているのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年10月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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