現在各国が「カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)」の実現を宣言していますが、あまり現実的なイメージが湧きません。
これを実現するにはクリーンエネルギーの割合を増やす必要がありますが、太陽光発電は聞く限りではかなり有用そうな技術なのに、実際はぜんぜん利用が進んでいません。
その理由は1つに、供給能力の不安定さがあり、またもう1つの大きな要因は技術的なコストが見合っていないからです。
しかし技術にかかるコストは時代と共にどんどん低下していく傾向があります。これを考慮すると今後の世界のエネルギー源は現在の予想とはかなり変化する可能性があります。
イギリスのエクセター大学(University of Exeter)地理学部に所属するフェムケ・ナイセ氏ら研究チームは、世界的な課題を評価するために設計されたマクロ計量モデル「E3ME-FTT」を用いて、各国の主要なエネルギー源の変化を予測しました。
特に今回考慮されたのは、太陽光発電におけるコストの変化です。
その結果、2050年までに世界全体の主要なエネルギー源が太陽光発電に切り替わることが示され、現時点でその「転換点」は超えている可能性があるようです。
研究の詳細は、2023年10月17日付の科学誌『Nature Communications』に掲載されました。
カーボンニュートラルを目指した世界の課題

2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すと宣言しました。
同様に多くの国も、2050年(EU、イギリス、韓国)、2060年(中国)、2070年(インド)までにカーボンニュートラル(もしくはネットゼロとも呼ばれる)を達成することを約束しました。
では、世界のカーボンニュートラルはどれほど順調なのでしょうか。
それを知るための1つの方法は、今後の「主要なエネルギー源」を予測することです。
しかしナイセ氏ら研究チームによると、「従来の(化石燃料を中心とした)予測方法はもはや古く、現実的ではない」ようです。
近年見られる再生可能エネルギー技術の急速な進歩を十分に考慮して予測する必要があるというのです。
実際、彼女たちによると、「2010年から2020年にかけて、太陽光発電のコストは毎年15%ずつ低下している」ようです。

そこで研究チームは、世界のクリーンエネルギーへの移行を予測するために、「E3ME-FTT」と呼ばれる世界的なマクロ計量モデルを採用しました。
E3MEモデルは、世界の経済、エネルギーシステム、環境を統合したモデルであり、欧州委員会の支援で開発され、現在は世界中の政策評価や将来予測、研究などに利用されています。
その最新バージョンには、電力部門向けの「FTT:Future Technology Transitions」モジュールが導入されており、今回、主要なエネルギー源の予測に役立つようです。