武装抵抗組織ハマスの誕生と現状
その後1987年にパレスチナ住民蜂起「インティファーダ」が起きると、再び状況が変化する。イスラエルに支援されていたはずのムスリム同胞団が、武装抵抗組織として「ハマス」を結成したのだ。やがて1993年のオスロ合意に基づいて「パレスチナ自治政府」が樹立すると、イスラエルは自治政府との合意により2005年にガザ地区から撤退。しかしその直後から、ガザ地区ではハマスと自治政府との対立が鮮明となる。そしてついに2007年には、イスラエル国家の殲滅を旗印とするハマスが実力でガザ地区を実効支配するようになり、現在に至っているのだ。
「イスラエルはガザから撤退した後も、2006年と2008年の2回、ガザ地区に侵攻しています。2006年はイスラエルのミサイルが誤ってガザに着弾し、死者が出たことで双方の戦闘が激化しました。2008年末には、ハマスのロケット攻撃が原因で大規模な衝突となりました。しかしまともに戦闘を行えば、ハマスが中東最強のイスラエル軍にかなうはずもありません」
「現に2008年末から翌年にかけてのイスラエルのガザ侵攻では、イスラエル側の死者が13人であるのに対し、パレスチナ側は民間人も含め1,300人以上が犠牲となっています。倍返しどころか100倍返しがイスラエルのやり方なのです。他方パレスチナ側は、イスラエルの無差別攻撃で死亡した民間人の惨状をメディアに流すことで、イスラエルの非道を世界に訴える戦術を繰り返しているのが現状です」(外交官)
紛争の背景にある事実
さて、今回の紛争の直接の契機は、先月12日にイスラエル人少年3人が誘拐され、30日になって全員が遺体で発見された事件だ。しかし外交官は、そこには国家の思惑も見え隠れすると語る。
「小規模な攻撃とはいえ、ガザからロケット弾攻撃を繰り返すハマスは、イスラエルにとっては非常に目障りです。ネタニヤフ首相はガザに侵攻し、ハマスの軍事力を削ぐ機会を常に狙っており、イスラエル国民の多くも強硬な対応を支持します。今回の事件は、ネタニヤフ首相に格好の口実を与えたという側面があるでしょう」
「イスラエル側は国際社会の圧力も睨みながら、ある程度の軍事的目標を達成したら、これまでと同様に撤退するものと思われます。このように定期的にガザに侵攻することで、ハマスの活動を一定の限度内に封じ込め、同時にガザの発展を阻害することもイスラエルの思惑でしょう」(外交官)

さらに外交官は、イスラエルがこのように強硬な姿勢を貫く背景には、別の事情もあると指摘する。
「日本ではほとんど報じられませんが、誘拐事件の犠牲者となった少年の1人はアメリカ国籍も有していました。つまりアメリカにとっては、自国民が巻き込まれた事件でもあったわけです。実はイスラエルには、欧米との二重国籍を持つ人も多いのです。つまり欧米諸国にとっては、自国民がテロの犠牲者にもなっている。イスラエルに対する欧米諸国の対応がいまひとつ手ぬるいように見える原因のひとつは、こうしたところにもあります」
そして外交官は次のように話を締めくくった。
「一方、勝ち目のない無用の戦いをもたらして市民の犠牲者を増やすハマスの態度も、統治者としての的確性を欠くものと言わざるを得ません。真に住民のことを考えるなら、時には忍びがたきを忍ぶことも必要なはずです。また、ハマス支配下のガザ地区では、言論の自由は封殺され、反対勢力に対する拷問や暗殺も日常茶飯事です」
「他方パレスチナ人に対して容赦のないイスラエルは、2008年にハマスに誘拐された兵士1人の解放に対する見返りとして、テロ容疑で収監されていたパレスチナ人1,000人以上を釈放したことさえあります。少なくとも自国民の生命に関しては、イスラエルの方が格段にこれを重視していると言えるでしょう」
幾度となく繰り返されるパレスチナでの紛争。いつの日か、暴力と憎しみの連鎖が断ち切られる時はやって来るのだろうか。
文=櫻井慎太郎
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提供元・TOCANA
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