お化けが出ることを知るとカンニングが減る

実験の結果、お化けの存在を知った人は、他のグループの人と比較して、プログラムの誤作動を修正するまでの時間が最も短くなりました。

お化けグループの人は、誤作動により表示された「正答」の文字をすみやかに修正した
Credit: Bering et al. (2005)

これは、お化けの存在が自己中心的な行動を抑制する可能性を示唆しています。

お化けの存在を知ることによる自己中心的な行動の抑制は、試験のカンニングや剽窃(コピペ)、偽造などの不正行為を防止する方法として有用だと考えられています。

実際、特に応用が利くのは教育だと考える人が多いかもしれませんが、そこには注意が必要です。

たしかにテスト実施時に教室にお化けが出ると伝えることはカンニングの防止につながるかもしれません。

しかし受験者の認知能力が低下してしまう可能性があります。

というのも、実験でお化けの存在を知った人は、他のグループの人と比べて、空間認識能力を測るテストのスコアが低くなってしまったのです。

研究チームは「お化けの存在は利己的な行動を抑制するが、認知的な資源がお化けに取られ、認知機能が低下してしまうと考えられる」と述べています。

この点を考慮すると、教育の分野ではなく、隠蔽や偽造が起きやすい場所にお化けが出る噂を流すことで、不正行為を防止することができるかもしれません。

神様の存在を意識しても自己中心的な行動が抑制される

神様の存在を意識しても自己中心的な行動が抑制される
Credit: Unsplash

自己中心的な行動を抑制するのは「お化け」だけではありません。

神様の存在も自己中心的な行動を抑制し、利他的行動を促進するようです。

2007年に「Psychological Science」に投稿された、ブリティッシュ・コロンビア大学のアジム・シャリフ氏(Azim Shariff)ら研究チームは、神様の存在を意識することで心理・行動面にどう影響するかを検討しました。

実験では、参加者に①神様に関連する10個の単語(spirit、divine、Godなど)を使って文章を作る人と、②何もしない人の2つのグループに分けました。

この活性化させたい概念に近い単語を用いて文章を参加者に作成させる手法は認知心理学でよく用いられます。

結果、神様の存在を意識した人は、しなかった人と比較して、約2.3倍多くのお金を他者に分配しようとする傾向がありました

これらの結果は、超自然的な存在を意識することが利己的な行動を抑制する可能性を示唆しています。

日本人はよく特定の宗教を持たないと言われますが、代わりに日常的な観念として物に魂が宿るとか、あらゆる場所に八百万の神が住んでいるというような道徳観を持つ人が多く存在します。

これが日本ではお財布を落としてもちゃんと交番に届ける人が多いなどの理由に繋がるのかもしれません。

研究チームは「人間の目が描かれた壁紙やカメラの存在が利他的行動を促進することが分かっている。これは超常現象的な存在であっても生じるようだ。神様や幽霊などの超常的な観察者が存在する場合にも、自己中心的な行動が抑制されると考えられる。」と述べています。

また神様の存在を意識することによる自己中心的な行動の抑制に関しては、認知能力が低下するデメリットは確認されませんでした。

そのため認知能力の低下が懸念される教育などの場面では、幽霊よりも神的存在を意識させることで不正行為を防止するのが有効かもしれません。

元論文
Reasoning about dead agents reveals possible adaptive trends
God Is Watching You: Priming God Concepts Increases Prosocial Behavior in an Anonymous Economic Game